第〇三話:生き倒れの少女
「……もしもし?」
「……」
何か今回良く人と出会うな……。
今目の前には、何か倒れている女性が一人。流石にこれは無視出来なかったので、声をかけてみたのだが反応がない。死んでいるのかと最初は思ったけど、息をしているので、まだ生きているはずだ。
ピクリ。
声をかけながら身体を軽く揺すったりしていると、一瞬だけピクリと反応した気がする。
「あのー? 生きてます?」
「う……」
「良かった。生きてはいるみたいですね。こんな所で倒れてると危険ですよ?」
「うぅ……」
「あの?」
何か呻き声みたいのを出すものだから、本当に大丈夫かと思ってしまう。
「お……」
そう思っているとようやく、言葉らしきものが飛び出してきそうだったので聞き逃さないようにしないと。
「お?」
「お腹がすきました……」
「……」
……これが、生き倒れってやつか?
「すみません……何か食べるものを恵んでくれないでしょうか」
見た感じでは、本当にお腹を空かせて倒れているみたいだ。
しかし、こんな道のど真ん中で倒れるって、どれだけお腹空いているんだ……それとも何かあったのだろうか。まあ、それは後程聞くとして。
「んー……食べ物か」
何かあっただろうか?
精霊として過ごしていたからなあ……精霊は食べる事は出来るし、味わう事だって出来るけど、別に食べなくても生きていけるのだ。僕の場合、元人間なのでやっぱり何か食べたいとい気持ちはあった。
お腹とか全然空かないんだけどね。まあ、それで、精霊の森の中では主に魔物の肉を調理してたまに食べるくらいはしていた。
魔物の肉以外にも森は食材の宝庫と言われる通り、きのことか木の実とか結構あった。それにあそこは精霊たちは集う場所でもあるので、実際食べた感じではかなり品質が良いのではないだろうか。詳しくは分からないけど。
もちろん、ティタたちの許可をもらって、だ。
火とかそういうのは魔法で何とかなるし、器具については別に器具がなくても風の魔法を使えば、色々と切れるので、それらを駆使して作っていた。
念の為、湖のすぐ近くで作ってたかな……ほら、あそこって森だから周りには木がいっぱいある訳だし、万が一引火でもしたら大火事になる恐れがある。
まあ、ティタとかアクアとかが居るから大丈夫だったかもしれないけど。
なので、一応食べてはいたのだが、いざ、森を出て行く時に持ってきているかどうかについてはまた別問題。在庫あったかなあ……。
そう思いつつ、空間収納を使って中を確認する。
「ん?」
この中にはそんなに荷物は入れてないと言うか、持っていく必要がなかったので結構すっからかんだったりする。なので、すぐ何があるか分かるのだが……。
「あった」
精霊の森で狩っていた魔物の一種で、レッドウルフと呼ばれる赤い毛皮を持つウルフ系の魔物の肉だ。レッドウルフは割といろんな場所に生息していて、主な肉の食材として狩られる事が多いし、納品依頼も多いらしい。
安定した味の肉で、庶民でも手の届きやすい価格で売っているそうで、結構一般家庭とかに普及している……と聞いた気がする。
奥地に居るシルバーウルフの肉はかなり美味しいと言うけどね。
因みにフォンセに懐いていたシルバーウルフは、シルバと言う名前になった。名前を付けたのはフォンセで、周りから付けた方が良いのでは? と言われたから付けたとの事。
で、そんなシルバは今もフォンセと一緒に精霊の森で過ごしているよ。
「ちょっとまってて」
「うぅぅ」
流石に生のまま食べるのはあれなので、焼くつもりだ。
僕とか精霊の場合は生で食べても問題ないけどね……つくづく、人間じゃない事を思い知らされるよ。認めた訳ではないけど、この世界では間違いなく精霊という分類になるし、半ば諦めモードである。
空間収納からレッドウルフの肉を適当に取り出す。
水で一応洗ってから、風の力で肉を浮かせ、その状態で下から火を発生させる。焼くと言っても、焼くための器具とかそういうのはないし、焚き火をするにしても集めるのに時間がかかる。
何だかこの魔法も大分使い慣れてきているなあ、と思いつつ。調味料はないので、味を付けることはできないけど、実際食べてみた感じでは味付けしなくてもそれなりに美味しかった気がする。
もちろん、味付けしたほうが美味しいだろうけど。
シュリア王国に行ったら調味料とか、探してみようかな? 食べなくても生きていけるとは言え、やっぱり元が人間なので味わいたいっていうのもあるけど。
この世界の料理はどんな感じだろうか。
大体、こういう世界を題材にした作品とかって食文化自体は結構進んでいたりするよね……まあそれは、地球にある物語での話なんだけどさ。
でも少し期待したいじゃない?
まあそれは置いとくとして、このくらいで良いかな? 程よく焼けた肉を今度はさっき取っておいた木の棒で刺し、串焼きのようにする。
木の棒も水の魔法を使って洗ってあるので、問題ないはず。流石にそのまま渡すっていうのもあれなので、一番食べやすそうな感じにしたのだが。
「いい匂いがする……」
「大丈夫ですか? どうぞ、レッドウルフの肉です」
「!!」
串焼きにした肉を差し出すと、驚いた顔をするがそのまま受け取ってかぶりつく。
「まあ、味も何も付けてないのでちょっと物足りないと思いますが」
「全然そんな事ないよ! 何か食べられれば良かったから! ありがとう!」
それなら良かった。
にしても、どうしてこんな所で生き倒れていたのかねえ……女性というかレッドウルフの串焼き風の肉を食べている、見た目14、5歳くらいの女の子を見る。
地面に膝を付けているので身長はわからないけど、まあ、間違いなく今の僕よりは高いと思う。目の色は綺麗な緑色をしている。
髪の色は、土で少し汚れてしまっているが金髪……かな? 動きやすそうな服装をしており、腰にはナイフ? 短剣? 取り敢えず、そんなものを装備しているように見える。
……冒険者ってやつなのかな?
どっちにしろ、何か事情がありそうだし、聞けるのなら聞こうかな。ただ厄介事とかは勘弁したいけど……倒れていたのは気になるしね。
もちろん、面倒な感じだったらスルーするつもりだ。こっちもこっちで目的がある訳だしね。
「はあ、生き返った……」
何本かの串に分けたのだが、その全部を食べ切り、少女は満足な顔をして呟く。余程お腹空いていたのだろうか……。
「ありがとうございます。お陰様で生き返りました」
「う、うん。それは良かったけど……何かあったの?」
「そうですね……うーんまあちょっと油断してしまっただけですよ」
油断?
やっぱり何かあったのかな。取り敢えず、話してくれそうなので少女の話を聞くことにするのだった。
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