第〇二話:遭遇?


「ふむ」


 どうしたものか。

 シュリア王国へ向かう道を進んでいると、ここから結構先の方に箱から車輪が出ているような、変な物を見かけたのだ。この距離だと正確には分からないが、何かと争っているように見える。


 普通に考えれば魔物とかだろうか。

 あの箱は……もしかして、馬車っていうやつか? 先頭に馬が居れば分かるけど、この位置からじゃ後ろしか見えないので、分からない。


「馬車、か」


 地球では見ないよな。むしろ、地球の何処かで馬車とか走っているのだろうか? 何処の国ももう車が普及してそうだし。世界中全てを知っている訳ではないからあくまで、僕の知る範囲での話である。


「風さんお願い」


 別にただ止まっているだけなら良いけど、念の為と言う事で風の力をあの馬車かは分からないものの方へ送る。すると空気を伝い、どういう状況なのかが分かって来る。


『大人しく金目の物と、女を置いて行け。そうすれば命だけは助けてやるからよ』


 まず始めに聞こえたのがこの言葉。

 うん……完全に悪党が良く言う台詞だよねそれ。この男以外にも複数人の存在も感じられるから、一人ではないのは確かか。さて、問題なのが馬車側の方だが……。


『誰が素直に従うか! おい、戦闘準備!』

『おう!』


 これは馬車側の人の声かな? なんていうの、あれだよあれ……そうそうボディーガードみたいな。護衛みたいな人たちかな? 風なので分かるのは気配と声程度だ。


「んー聞こえる会話からすると、遭遇したばかりって所か」


 さてどうするか。

 迂回して、スルーするか堂々と突き進んで行くか……無難なのは迂回して進む事かな? とは言え、襲撃者? の数が異様に多いのは気になるな。感じる気配は10人以上、と言った所だろうか。


 いや、護衛の人も混ざっているかもしれないけどね……気配については、精度はそこまでよろしくないから、何とも言えないし。


「んー」


 少しだけ近づいてみる。

 さっきより、はっきりと見えるくらいになる。自分自身の力もそうだけど、視力とかも何か可笑しいよな……近付いてはいるけど、それでも普通この距離ではっきり見えるか?


「気にしたら負けか……んと、結構居ると言うか囲まれているな」


 馬車の進行方向には、ここから数えてみただけでも数十人は居そうだ。綺麗に馬車を取り囲んでいる。この数は結構きついのでは?


 対する護衛の数は全員かどうかは分からないけど、5、6人と言った所。もしかしたら他にも居るかもしれないし、中に乗って守っている人も居るかもしれないから正確には分からないけど。

 既に戦いは始まっているようで、数十の数のならず者? たちと護衛とそれぞれの攻撃がお互いにぶつかり合う。剣と剣が触れて響く金属の音や魔法が発動したような音とか、色々だ。


「ならず者だか盗賊だか山賊だか知らないけど、流石にあの数を相手するのはきついよねえ」


 現に護衛側は押され気味だ。時々危なっかしい所もあるし……前線が崩壊すると、後衛はすぐに壊滅してしまう恐れがある。

 見た感じ、戦っているのは男性と女性がそれぞれ3人くらい。6人パーティと言った感じかな。前衛4人、後衛2人? 他にも居るかもしれないけど、バランスは良い方かな?


 まあ、良くわかないけど。


「んー……落ちろ」


 数発の小規模の雷が落ちる。この距離でも結構音が響いてくるな……。

 別に助ける必要はないかもしれないが、まあこのままやられてしまっても後味が悪いし、罪悪感が残りそうな気がするので、取り敢えず加勢……とはちょっと違うかな。

 それに、男はともかく、女性とか負けたらこのまま最後は死ぬよりひどい目に遭うのが目に見えてるし。そういう世界だから。


「……今のは君がやったのかい?」

「さあ?」


 雷を落として一部の襲撃者を倒した所で、僕の方も近付いて行く。

 流石にこの距離まで近付いたらそこに居る人たちも僕に気付く訳で、驚いた顔をしながら僕に質問を投げて来たのだが、わざととぼけたように返す。まあ、やったのは僕で間違いないけどね。

 護衛の人の疑問は無視し、そのまま続けて雷を落としたり、風弾を放ったりなどしつつ襲撃者を倒していく。思ったより強くないな……だからと言って油断はするつもりはないが。


「あぶな……!!」


 護衛側の方の女性が、悲鳴のように僕に叫ぶが問題ない。


「風」

「ゴハァっ!?」


 背後から明確な殺意を察知したので、素早くやや高威力の風を掌に纏わせ、思いっきり背後に来た男をぶん殴る。丁度、その殴った場所がお腹の位置らしく、攻撃をもろに受けた男はその場に白目を剥いて気を失う。


「バレバレなんだよね」


 伊達に精霊の森で戦ったりしていた訳ではないのだ。

 まだ精霊の森の中間のあたりの魔物の方が強かった気がするよ。まあ、一番やばいのはやっぱり大精霊たちだよなあ……ティタもそうだけど。


 何度か、魔物を相手にする以外にもティタたちと一騎打ち的なものをやらされた事もある。うん……魔物より当たり前だけど強くて、全然勝てなかったよ。一属性しか使えないのに流石は大精霊と言うべきか。

 精霊王のティタ? 駄目だ、ティタはもう別次元過ぎて勝てる未来が見えなかった。大精霊以上の力を持ち、更に僕と同じように全属性が使えるから、完全に僕の上位互換だよ。


 まあでも、後半になると結構惜しい所までは安定して行けるようにはなったのだが、それでもやっぱり勝てなかった。新参者な僕が長年、この世界に生きていた精霊たちに敵うはずもないよなあ。


「な、なんだこのガキ!?」

「やばいですぜ! このガキ、ただもんじゃねえ!」

「んなもん、見りゃ分かるわ!」


 突然現れた見た目幼女な僕が、短時間で今残っている三人以外の襲撃者を倒してしまった事で、襲撃者も護衛側も酷く驚いた表情して僕をガン見してくる。


 そんな見られても困る。


 でだ。当の襲撃者は今のを見て只者ではない事は察したようだ。普通、こういう人ってそんな察する事なく、怒り狂って襲って来るようなイメージがある……まあ、僕の偏見なんだけどさ。


「殺していないから、後は好きにして良いよ。じゃあね」

「え? ちょっと!?」


 襲撃者の方はすっかり戦意喪失しているし後は何とかできるだろうと思い、その場を去ろう思ったら、僕を引き留めるような声が聞こえてくる。


 でも僕はそれをスルーし、素早く馬車から離れて行ったのだった。






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