第二章:不穏な影と精霊契約

第〇一話:森を抜けて


 ティタの結界の張られた領域の外に出て、精霊の森の浅い方……出口近くに向けて僕は歩き始める。色々とお世話になったし、今度は自分でも動かなきゃね。


「確か森を出ると分かれ道があるんだったかな」


 ティタたちに話を聞いた限りでは、このルートで精霊の森を抜けると三つに分かれる道があるらしい。一つはシュリア王国に繋がり、一つはリフィア聖王国で繋がる。そして最後の一つが、その二か国の国境沿いをずっと進んで海に出るとの事。


「どっちの国から先に行くか……」


 その前にまずは森を抜けないといけないのだが。

 霊体化して空を飛んで移動する方が速いのは速いけど、ティタにも言われている通り基本的には実体化の状態で居る予定なので、あまり乱用はしないつもりで居る。


 霊体化はデメリットとか不便もあるけど、メリットもあるからね。霊体化状態なら同じ精霊以外には認識されないと言うのもあるし、何の消費もなく空を飛んだりできるし、障害物等を無視して進める等、結構とんでもなかったりする。

 まあ、霊体化を使うのは何か必要がある時だけって決めたので普通に行動する際は、さっきも言った通り特に使うつもりはない。


 で、話を戻すのだが、この精霊の森があるラックフォレ大陸には、精霊の森以外に国が二つあると言ったと思う。それがさっき挙げた二か国だ。

 どちらも王国であり、聖王国については単に聖が付いているだけで、中身はただの王国のようだ。ただ聖王国内では国王の事を国王と呼ぶのではなく、聖王と呼ぶらしい。因みに王妃はそのまま王妃である。


 何が違うのか……まあ、宗教国に近いと言った感じかな、聖王国は。

 精霊の存在を信じていて、精霊を信仰している国みたい。まあ、精霊の姿は見えないらしいのだが……あ、でも、ティタが聖王は精霊と契約しているって言ってたかも。

 確か光の上位精霊だったかな? 詳しくは聞いてないから分からないけど。


「うーん……」


 三つ目のルートを使って海に行っても何するのって話になるしな……いやまあ、他の大陸にも行く気はあるけど。出来る事なら世界中を回ってでも地球へ帰る方法を探したい所。


 そんなこんな考えていると、何時の間にか森を抜けて平原に出ていた。流石に地球のように道が整備されている訳ではないものの、一応、少しは整備してあるのかな? 道のようなものは見えるし。


「三つに分岐する道……ここがティタの言ってた場所か」


 ティタの言う通り、綺麗に道が分かれている。


「まあ、取り敢えず……まずはシュリア王国に向かおうか。何となく聖王国は精霊の僕としては、ちょっと嫌な予感がするし」


 そう予感しているだけで、何の根拠もないけど。

 ここは直感に従い、シュリア王国の方へ行こうと思う。どんな国か……確かシュリア王国は農作物系が有名だったっけ? 聞いただけの話だから何とも言えない。


 気候とかも安定していて、過ごしやすい国とも言ってた。聖王国も同じ大陸にはあるけど、若干聖王国の方が全体的な気温は高めで、雨も定期的に降るそうだ。

 シュリア王国も、雨は普通に降るけど土砂降りとかになる事はなく、基本的には軽めの雨? だったかな。そして気温等も過ごしやすい。


 この世界にも季節っていうのはあって、その名称もを地球と同じで春と夏、秋と冬の四季。もちろん、場所によっては四季なんてあってもないような所だったりする事もあるが。


「よし。最初の目的地はシュリア王国かな」


 目的地を決めた所で、僕はそのシュリア王国へと繋がる道を進み始めるのだった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「……♪」


 誰も見てないし、誰も居ない道を歩いていると自然と鼻歌を歌ってしまう。天気も良く、雲はあるけどそれでも暑くもないし寒くもないという、本当に過ごしやすい気温である。


 途中、何体かの魔物と遭遇した物の特に苦戦もせず倒せた。まあ、精霊の森の魔物で大分慣れるからっていうのもあるだろうけど。

 ただ未だに虫型の魔物はちょっと苦手。最初戦った時よりはましになったけど。


「ティタに渡されたこれ、いくらくらいあるんだろう?」


 旅の支度金? と言う感じで、ティタから数枚の硬貨を渡されたのだが、金貨が入っている時点でそれなりの金額だよね?


 地球と違ってこの世界では数種類の硬貨が通貨となっている。

 順番に言うと銅貨、銀貨、金貨、大金貨、半白金貨、白金貨の6種類だ。それぞれの硬貨が10枚で一つ上の硬貨1枚分の価値になる。


 つまり銅貨10枚で銀貨1枚と言った感じだ。

 とは言え、これについてはぶっちゃけ深く考える必要はない。何故かと言えば、わざわざ数十枚貯まる度に銀行に行って上位硬貨にするなんて事は基本しないからだ。


 面倒くさいと言うのもあるんだろうけど……銅貨100枚で銀貨10枚分のものを買ったりするからね。もちろん、桁が増えすぎれば流石に上位硬貨にするが。


 取り敢えず、提示された金額をどの硬貨で払っても問題ないと言う事。


 日本円に換算するとどうなるかまでは分からないけどね……銅貨1枚100円とでも思って置けば良いかな? その辺は実際のお店に行って物価を見てから考えれば良いか。


 話が逸れたのだが、そんな訳でティタに渡されたお金と言うのが、銅貨50枚、銀貨30枚、金貨5枚、大金貨1枚の合計86枚……多くない?

 まあ、そうは言っても便利な魔法があるから持ち運びは楽である。今の僕の持ち物は背中に背負っているそこそこ長い杖一本だったりする。


 他の荷物は? と思うが、そもそも僕に荷物なんてそんなないし。そしてティタから渡されたお金についてはフォンセに教えてもらった空間収納(ストレージ)の中である。

 空間収納(ストレージ)は、別に精霊がそう名付けた訳ではなく、この世界の人が名付けたもの。直球的な名前で分かりやすいので、精霊でも使うようにしたそう。


 で。

 何で杖はそのままなのか気になると思うけど、これはティタたちの助言だ。武器は何かしら持っておいた方が良いと言われたから。

 その方が、荒くれものとかならず者とか盗賊やら山賊やらに狙われにくくなるとの事。まあ、確かに手ぶらで出歩いていたら襲ってくださいと言っているようなものだね。


 不本意ながら今の僕は精霊だけど、性別も完全に女の子。しかも幼女……これじゃあ、格好の餌だわな。この見た目だと武器持っていても普通に襲ってきそうなんだけど。


「……戦い自体は出来るけどさ」


 魔物が相手ばっかりだったので、そう言った人間とかを相手にするのはちょっと忌避感があるけど、やらなきゃやられる……それはティタにも言われた事だ。

 地球と違って、命が軽いと言う事も分かっている。なのでその覚悟はあるよ……こればっかりは、ティタたちに感謝しないとね。


「……よし」


 僕はそのまま道を進んで行くのだった。




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