第一五話:旅立ち


「本当に行っちゃうの?」


 そう心配そうに声をかけてくれるのは、大分仲良くなった……と思う闇の大精霊のフォンセだ。何だかんだ、フォンセと一緒に居た時間が長かった気がする。

 いや、もちろんティタやアクア、ルミエールの事も嫌いじゃないし、今までに色々と教えてくれたり、ここまで良くしてくれたのだからむしろ、逆だ。


 僕がこの世界に来て、ティタたちと会って……その後一緒に過ごした時間が長いのはフォンセな気がすると言うだけだ。やっぱり、黒髪黒目の馴染みが強いからだろうか?


 フォンセは、言葉数こそ少なめだけど良い子である。

 何年生きているかは分からないけど……精霊とは言え、女性の姿をしているフォンセたちには流石に年齢は聞けない。でもまあ、それなりの年月を生きてきたのだろうなと思う。


「前々から言ってましたしね。特に私は反対はしませんけどね……ネージュはもう十二分に力を付けていますし。ですが、行ってしまうのはやはり寂しいですね。私が一応ここに連れて来た本人ですしね」


 フォンセに続けて話すのは精霊王で、僕をこの場所に連れて来てくれた本人のティタこと、ティターニアである。

 ティタのお陰で、右も左も分からなかった僕はこの世界についての事を色々と知れた訳だからね。全てをティタから教わったと言う訳ではないけど、世界について知識を得られる機会をくれたのは間違いなくティタだ。


 戦い方とか、力の使い方とかも教えてもらえた。ずっとこの場所に居ても良いと思ってしまう自分が居るけど、地球へ帰ると言う事が僕の優先目標だ。

 一応、ティタたちも色々と手掛かりを探してくれているみたいだったけど、ずっと頼り切りというのは流石にね。


 自分でも既に大分色々と理解出来てきているという自覚はあるから、そろそろいい加減に自分でも動くべきかなって思う。

 手掛かり……地球に帰る方法。本当にあるかはまだ分からない。だけど、諦めたくはないし、元の世界に戻りたいと言う気持ちに変わりはない。

 最悪、この身体でも構わない……家族が無事過ごせているのかそれらが分かるだけでも僕は良い。一番の理想はもちろん、その家族たちが生きていて、今の僕の事を信じてくれる事だけど、その辺りは今の段階では何とも言えない。それを考えるのは地球に戻れる方法が見つかってからだ。


 まあ、そんな訳で僕はそろそろこの場所から出て行こうかと思っている。さっきも言ったように、自分でも色々と探したいし、この世界の事をもう少し知りたいと言うのもある。

 聞いただけでは分からない事もあるだろうし、実際この目で見たりもしたい。もちろん、優先目標が第一ではあるけど。


「まあ、今のネージュなら人間には負けないだろうしねえ。何かあってもすぐに倒せそうね」

「それは流石に買いかぶり過ぎでしょ……人間にも強い人は居るんだよね?」

「ええまあね。でも、その人すら凌駕しそうよ」

「ええ……」

「ネージュちゃんは、私から見てもやばいって思うよ!」

「ルミエールまで……」


 精霊感覚で居るから実際はどうなのかは分からないのも事実だけど。

 仮に強かったとしても、油断は禁物である。一瞬の油断等が命取り、と言われた通りこの森を出た後でも練習とか鍛錬とかは欠かさずやるつもりだ。


 何時でも万全に、ね。


 結局、他の三人の大精霊とは会えてないけど……この先、何処かで会えたら良いなと思ったり。火の大精霊のイグニさんとは一応、念話で簡単に話せたけどね。


「一つだけ注意点があります」

「注意点?」

「はい。ネージュは間違いなく精霊となっていますので、その正体をばらすのは控えた方が良いです。力は別に魔法と同じようなものなので、いくらでも誤魔化しようはありますけど、ネージュ自身は精霊ですからね。いくら地球で人間だったとは言っても、今は精霊なのでそこは気をつけてください」

「うん。それは分かっているつもりだよ」

「まあ、精霊と言った所で信じるかは分からないけれどね」


 精霊は基本、人前に姿を見せない。

 だから、どういった存在なのか、この世界の人たちは正確には分からない。ただ、精霊と契約をしている人は恐らく、精霊も認めていると言う訳なのでその姿を見る事は出来るだろう。

 後は、精霊自身の意思で姿を見せた際とかなら第三者でも見る事が出来ると思う。単に霊体化と実体化のどっちかの違いだしね。

 因みに契約した精霊は契約者であれば、霊体化の時も認識する事が出来る。もちろん、第三者には見えないが。


 そもそも精霊と契約すると言う事自体が、そこまで多い話ではない訳だしね。


「それもそうですけどね。と言う訳なので、基本的には実体化の状態で居た方が良いでしょうね」


 実体化の状態で居るつもりではある。何かあった場合とかは霊体化するかもしれないが、基本的には実体化状態のつもり。だって、霊体化の状態だったら物が掴めないし、色々と不便だしね。


「後、何時でもこの場所には戻って来ても良いんですからね? 何なら私たちを呼び出してくれても良いですよ」

「そうそう! いつでも帰って来てね!」


 ティタの言葉の後に、ルミエールが混じって来る。


「何かあった時は呼ぶかも」

「ふふ、それは任せなさいな」

「私もすぐに駆け付けるよ!」


 何もないのに呼び出すのは流石にしないけど。

 あまりティタたちに苦労とか迷惑はかけたくないので、本当に自分ではどうしようもなくなった時は頼らせてもらおうかな。


「ん。何時でも駆けつける」

「ありがとう、フォンセ」

「っ! き、気にしないで」


 上手く笑えているかな? 僕は出来る限り、お礼と一緒に笑顔を作ったつもりだけど……でも何だか、フォンセの顔が赤いような?


「あらあら?」

「これは……なるほどなるほど」

「?」


 いやそこの二人だけで納得しないでよ。熱でもあるのかな? でも精霊って風邪とか引くのだろうか。


「まあとにかく。ここはネージュの家と思っても良いんですから、何時でも好きな時に帰ってきてください」

「……ティタ」

「まあ、ここに連れて来たのは私ですしね。地球に帰れる方法……見つかると良いですね。私たちも無理のない範囲で探ります」

「本当に何から何までありがとう」

「気にしないでください。もうネージュは家族ですから。それからもし、途中でイグニ、シルフ、ノームに会った時は仲良くしてあげてくださいね。あの三人は本当にマイペースですから。まあ、イグニは火山の調査とかをしているので仕方がありませんけどね」


 火山の暴走自体は収まったらしいのだが、今は詳しく調査しているそうだ。なんでも、やっぱり原因は火の精霊が暴走した事だったらしい。

 何か黒いモヤみたいなのに侵食されていて、それが原因なのではないかと考えているそうだ。因みにその火の精霊はイグニさんのお陰で正気を取り戻したそう。


 何だか不穏だなあ……。


「一番マイペースなのはシルフじゃないかしら? あの子、本当に気まぐれであっちこっち行くし。風の大精霊だから風とかはお手の物だし、移動も早いしね。暴風地域で鍛錬って何しようっていうのよ」

「あはは……この前、ボクはこの世の全ての風を我が物にする! って言ってたよ!」

「風の大精霊なんだからもう風とか好きに操れるでしょうに……」

「案外言ってみたかっただけかもしれませんね」

「あり得るわね……」

「ん。アクアに同意。あり得る、シルフなら」


 何と言うか、自由だなあって思う。


「っと、話が逸れましたね。出発は明日でしたっけ?」

「一応そのつもり」

「それなら今日はちょっとした送迎会……と言うかパーティでもしましょうか」

「ここに居る人数だけで?」

「おおっ。それいいね。ネージュを送り出す会!」

「大精霊は三人しか居ませんけど、精霊たちはいっぱい居ますし、派手にやっちゃいますか」

「ティタも居るしね。もちろん、ネージュも」


 何かまた話が進んでいる……でも送迎会、ね。ちょっと嬉しいようなそうでもないような……いや、これは嬉しいと思っているのかな。


 ……そんなこんなで今日と言う時間が過ぎて行くのだった。




=後書き=

精霊の森を出る主人公……ネージュには何が待っているのか?

ここまでお読み頂きありがとうございました!


これにて第一章は終了になります。


第二章は少々お待ち下さいm(_ _)m

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