第一三話:奥地の魔物①
「ん……」
ふと、眠っていた僕は目を覚ます。
「ようやくお目覚めね」
「アクア……?」
目が覚めて、最初に視界に入ってきたのはアクアだった。苦笑いをしながら、僕の事を見ていた。
「! 今何時……」
「見ての通りよ」
すっかり日が暮れ、辺りは真っ暗となっていた。どうやら大分眠っていたらしい。
「ふふ。いやあ、三人揃って気持ち良さそうに眠っていたものだから、起こすのも気が引けたんだけど、風邪でも引いたら嫌じゃない? だからまあ、起こそうとしたんだけれど」
その前に目を覚ましたって事か。と言うか……
「
はっとなり、近くを見回す。
少し離れた木の下で寝たはずなのに、何か移動している? そして何か暖かいし、身体を掴まれているような感覚もある。
「……なるほど」
「理解できた?」
眠っている間に、誰かが僕を移動させたようでシルバーウルフの毛皮に寄りかかって寝ていたみたいだ。そうなると、この掴まれている感覚は……。
「まあ、フォンセしか居ないよね」
下に視線を向ければ、僕の手にしがみついて寝ているフォンセが居た。
シルバーウルフの毛皮に包まれて、二人揃って眠っていたって事か……移動させたのは、まあ、フォンセな気がしないでもない。
「それにしてもそのシルバーウルフは本当に懐いているわよね。正直私も驚きよ」
「まあ、僕と言うより、フォンセに懐いているんだけど」
僕に対しても何処か懐いているようには感じるけど、やはりフォンセにべったりである。怪我を治したからなのかねえ? まあ、それはともかく。
「ん……」
「起きたわね、フォンセ」
「んぅ? あれ? アクア?」
「おはよう。寝坊助さんの闇の大精霊さん」
「もう……こんな時間? 私寝てた?」
「それはもう随分と気持ち良さそうに寝ていたわよ」
目を覚ましたフォンセが周りを見回す。ちょっと分かりにくいけど、そこそこ驚いているみたい。まあ僕も驚いたから気持ちは分かる。
「ん……離れた所にネージュが寝てたからこっちに連れて来た所までは覚えてる」
「あ、やっぱりフォンセが僕の事こっちに移動させたんだ」
「ん。迷惑だった?」
「いや、迷惑と言うか、フォンセとシルバーウルフが気持ち良さそうに寝ていたから邪魔するのも忍びなかったし、離れた所で寝ていただけなんだけどね」
あんな気持ち良さそうな顔見せられたら誰も邪魔なんて出来ないと思う。でも、シルバーウルフの毛皮の寝心地はかなり良かったと思う。もふもふはやはり強いという事か。
……ふざけた事を言うのはやめよう。
「まあ、起きたなら良いかしらね。……それで、本題なのだけど、やっぱり魔物の数が増えているわね。主に奥地で」
「奥地……」
「教えたから分かると思うけれど、奥地に居る魔物は凶暴なのが多くて、精霊でも実体化状態では下手すると怪我する可能性もあるわ。人間とかは以ての外ね」
奥地。
名前通り、この精霊の森の奥の方の事を示す。どういう基準で奥としているのかと言えば、まあ、人間たちの国がある側を浅い方と呼んでいるから分かると思うけど、その反対である事。
つまり、国がある側から見て奥が奥地と言う事になっている。精霊の森を奥に向けて抜けると海に出るからそっち側から見れば向こうが浅い方と思うかもしれないが、それはないと思う。
何故ならそっち側には大陸とかは確認されてないからだ。一応、中央の大陸とされているこの世界では現状一番大きなセントラル大陸を基準にすると、このラックフォレ大陸は西側に位置する。
西の外れと言えば良いかな?
そのため、この大陸よりも西側には今の所では何もないと言うように言われているので、余程な事がない限りは海側が浅い場所と勘違いする人は居ない。
まあ……もっと西の方に別の大陸とか国がなければ、の話だけど。
と言うのも、西側の海は常に荒れているため、近付けない。しかも、中々凶暴な水棲の魔物が居たりするらしいので、調べようにもまずはその魔物と嵐に足止めされてしまうとの事。
この世界がどれくらい広いかは分からないけど、まあ、何かありそうな気はする。常に吹き荒れる嵐とか、何らかの意図しか感じられないし。
実際本当に常に荒れているだけの地域なのかもしれないけど。
話が逸れてしまったが、この精霊の森の奥地に居る魔物と言うのは凶暴で強力な魔物が多く、小さい魔物ですら結構やばいらしい。むしろ、小さい魔物の方が厄介だとも言ってたかな。
「ある程度、今日は魔物を間引いたけど、あれはまだまだ居るわね……」
「そんなに……?」
「ええ。ティタとルミエールと私で対応して居たわ。フォンセは昼間だし、呼ばなかったけれども」
大きな魔物はそれ程ではないが、小さな魔物が結構多かったそうだ。と言っても、大きな魔物もいつもよりは多かったらしいが。
「その奥地の魔物ってどれだけ強いの?」
ぶっちゃけ、教えてもらったのは奥地に居る魔物は凶暴で強力とだけだったし、実際見た訳ではないからどれくらいなのかは分からないのである。
「うーん……人間でいうSランク冒険者複数で何とか倒せるくらいかしら」
「Sランク?」
「冒険者のランクよ。因みに一番上はSSランクね」
「つまり、一番上……最高ランクの一つ下?」
「その通りよ」
ランクっていうのは良く分からないけど、一番上のランクの一つ下って事は、かなりの強者だよね? そんな人が複数人……。でもそんな魔物をティタたちはそれぞれ単体で対処していた、と。うん……そこは考えないようにしよう。今に始まった事ではない。
取り敢えず、相当の強さって事は伝わった。
「恐らくそのシルバーウルフも、そんな魔物が増えたから逃げてきたのかもしれないわね。基本集団で行動していたはずだから……」
「この子と一緒に行動していた他のシルバーウルフは全滅?」
「……と考えた方が良さそうね」
この世界でも魔物でも、弱肉強食なのはやはり変わらないと言う事か。……フォンセと僕は起きたけど、未だに眠っているシルバーウルフを見ながら、そんな事を考えるのだった。
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