第一二話:フォンセとシルバーウルフ②
シルバーウルフを助けてから、数日程度経過する。
すっかり元気になったシルバーウルフは、今日もフォンセと過ごしている。フォンセが木陰でシルバーウルフの身体に寄りかかって寝ていて、それに対してシルバーウルフは身体を丸めて、フォンセの事を包み込んでいる。
時間は正午……くらい。
時計なんてものはないので、何となくでしか分からないが太陽が真上に位置しているので、取り敢えず正午と判断した。
地球での知識がこの世界で役に立つのかは置いとくとして。
あれからだけど、やっぱり奥地の方に居る魔物が若干活発化しているとティタが言っていた。魔物の数も結構増えているらしく、このまま置いておくとスタンピードが発生する可能性があると言っていた。
最後に間引いたのは半年くらい前だそうで、その後からもちまちまと魔物を討伐して居たらしいけど、そのペースでは間に合わなかったようだ。
「スタンピード、ね」
異世界あるある?
この世界に来てどのくらい経ったかな……そろそろ、この世界を見たいと言うのがある。ずっとここに居ても、手掛かりは見つからないだろうし。
ティタたちも忙しそうだし、これ以上お世話になるのも何だかな。
「ここは良い場所」
良い場所なのは間違いないだろう。
人ではないけど、精霊たちが居るし、ティタや大精霊たちも居る。精霊たちとは良く遊んだりするし、大精霊とはまだ三人ではあるけど、色々を教えてもらったり話したり、相談したりもしたし。
火の大精霊のイグニさんも、良い人そうだったしね……実際対面は今はまだ出来てないけど。
忘れてはいけないのは、僕の目的は地球へ戻る事。当然、未だにそんな手段も手掛かりもない。ティタたちも探してくれているそうだが、僕も探さないとね……。
更に望むのなら元の身体に戻りたいと言う事。
とは言え、こっちについては皆にも言われているけど、戻れる可能性は低いのは確かなんだよね。仮に地球に戻れる方法があったとしても、元の身体に戻れるかは分からないし。
……でも、可能性はゼロではないのでまだ諦めないよ。
この身体で過ごしている内に、もう色々と慣れちゃっているけどね、うん。
今着ているこの白いワンピース……もうこの世界に来た時から着ているものだけど、全く汚れないし匂いもない。水に触れても濡れなかった。
頭に乗っかっているこの、ティアラも全然落ちないしね。激しく動かしても、走っても何をしても落ちない……一体どういう原理なのか。
なのに自分の手を使って取ろうすると、あっさりと普通に取れるっていう。他の人がやっても取れなかったのは確認済みだ。アクアとかフォンセとか、ルミエールに頼んでみたのだが。ティタにも取れなかったよ。
謎過ぎる……。
「……」
謎過ぎるは確かだけど、気になった所で考えても分からないだろう。
「それに、このワンピースも大概だし」
水を浴びたとしても、濡れない。たまたま精霊たちが水辺で遊んでいる時に近付いたら、結構な量の水をぶっかけられてしまったのは良い思い出。その時に、濡れない事にも気付いた。
「……それにしても、気持ち良さそうに寝てるな」
あーだこーだ考えながら、フォンセとシルバーウルフが寝ている光景を見る。フォンセは闇の大精霊だけど、見た目は女の子なので、こうやって見ると素直に可愛いって思う。
フォンセからしたら失礼かもしれないけども。
まあ、日本人特有の黒い髪に黒い目なのでその影響もあるかもしれない。アクアは透き通ったような水色の髪に水色の瞳である。
ルミエールは、金色の髪に金色の瞳だった。髪の長さはみんな、基本的には背中の真ん中くらいまで伸ばしている感じ。これはティタにも言える。
因みにティタの髪の色は緑。そして瞳は緑と金色のオッドアイだ。
「ネージュ、か」
半ば強制的? に付けられた僕のこの世界での名前だ。
雪と言う意味を持つらしいのだが、僕の何処に雪要素があるのか? いやまあ……髪の色とか白銀だし、それが雪と言えなくはないけどね。
名前の元は僕の地球での名前だけど、面影がほぼないよねこれ。本当の名前が消える訳ではないからって事で、僕も認めたけどさ。
ユウキっていう名前を女の子っぽくしてユキ。で、そのユキと言う名前を雪とし、その意味を持つネージュと言う単語にしたらしいが。
最終的にこの名前を認めたのは僕だけど、考えたのは僕ではなくアクアとティタである。とは言っても、一応ネージュっていう名前は男とも女とも取れそうな感じかな?
中性的な感じがする。雪と言う意味持つって事を知らない人から見れば、どっちか分からないかもしれないな。
意味を知ってたら女と捉えられそうだけど。
この世界での名前はネージュ……だけど、自分の本当の名前も忘れないようにしないと。こっちの名前でずっと呼ばれ続けているうちに、本来の名前を忘れてしまう事は避けたい。
柊裕貴……よし。
「何度も思うけど、綺麗な髪だよなあ……僕の髪なんだけど」
自分の長い髪を掴んで見ながらぼそっと呟く。
男である僕としては、最初全然慣れなかった長髪ではあるものの……今は大分慣れてきてしまっている。
でだ。
服は汚れないけど、髪の毛とかの手入れについてはまた別になる。流石に勝手に綺麗になるとかそんなのはないので、まあ、普通に洗ったりするべきである。そこは精霊も変わらないらしい。
まあ、霊体化して居ればすり抜けるし何も触れないので、汚れる事すらないけどね? 実体化して居れば当然身体は汚れる訳で。
ただ、汚れについてはルミエールに教えてもらった光の精霊魔法がある。何だっけ、浄化? 取り敢えずそんな感じの魔法だ。
これは穢れを聖なる力で浄化すると言う事で、身体の汚れに対しても有効だそうで、これを使えば身体が汚れても清潔を保てる。
魔法は便利だなやっぱり。
僕には全属性に対しての適性があるっぽいので、その魔法も使えた訳だ。ただ最初は中々上手く行かなかったのを覚えている。浄化何てどうイメージすれば良いか、分からなかったってのもあるか。
でも、流石に髪の毛を梳かすとか整えるような便利な魔法はないので、そこは自分でやる所。女の子の髪の毛の手入れとか、当然僕には分からない。
それもあって、最初は理解が出来てなかったが……今では大分慣れたな。何と言うか、手入れって大変なんだなあ、と分かったよ。
「ふあぁ」
何か僕も眠くなって来たかも。
「……もふもふ」
シルバーウルフの方を見ながらぽつり。
フォンセが気持ち良さそうに眠っているから、そこに乱入する気はないけど……反対側とかなら大丈夫かな。
フォンセの事を包むように丸まっているから反対側の面積は少ないが……。
「もふもふ」
シルバーウルフも眠っているので、起こさないようにその毛皮を触っているのだが、やっぱり気持ちが良い。そしてほんのり温かい。生きているのだから当たり前だが。
「まあ、邪魔はしないでおこうかな」
そのままシルバーウルフとフォンセから少し離れた場所の木の幹によりかかり、地面に腰を下ろしてゆっくり目を閉じると、数分も経過する事なく、そのまま夢の世界へと旅立てたのだった。
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