第一一話:フォンセとシルバーウルフ①


「ぐるぅ……」

「ん。くすぐったい」

「魔物が精霊に懐くなんて珍しいわね」

「ですね。基本、見境なく襲ってくるはずなのですが」


 怪我をしたシルバーウルフを治療し、結界の近くまで連れて来た所で、ティタとアクアに事情を説明し、出て来てもらったのだが……。

 回復したシルバーウルフは、治療してくれたからなのか、フォンセに何故か懐いていた。一緒に居たと言うのもあるのか、僕に対してもそこそこ懐いていた。

 ただ、フォンセへの懐き具合はかなりのものである。こうしてみると、少女に懐いている狼と言うか、大きな犬みたいな? いや、確かに狼はイヌ科だけど、犬と言ったたら失礼か。


 それ以前に、動物ではなく魔物だし……。


「取り敢えず、事情は分かりました。確かにシルバーウルフなる魔物が浅い所に居るのは気になりますね」

「そうね。一体っていうのも気になるわね。知っての通り、ウルフ系の魔物は集団行動が基本なのだし」


 二人は、フォンセにべったりしているシルバーウルフを見ながら何かを考えるように顎に手を当てていた。


 シルバーウルフ。

 ウルフ系と言うのは、まあ、こんな感じの狼のような見た目をしている魔物の事をまとめて呼ばれている。

 一般的にはウルフと言う魔物が居るのだが、その魔物が起点であり、そこから上位種だとか変異種だとか、色々と分かれる。

 シルバーウルフは上位種であり、綺麗な白銀の毛皮を持つ。その毛皮は上位種のものであると言う事もあって、この世界では高値で取引されていたりする。


 とは言え、シルバーウルフは知っての通り上位種。生半可な人では逆に蹂躙されてしまうだろう。危険性もあって貴重なのだから高値だと言う事。


 変異種として一番挙げられるのは、レッドウルフだろうか? 赤い毛皮が特徴で、普通のウルフと比べれば強いのだが、それでもシルバーウルフよりは、かなり下と言う感じ。


 これは余談になるが、毛皮も高値ではあるけど、その肉もそこそこ高値で取引されている。中でもシルバーウルフのお肉は特に美味しいらしいよ。

 あ、勘違いしないでくれよ。別に今そこに居るシルバーウルフをどうこうする訳ではない。それにフォンセに懐いているしな。


 レッドウルフの肉もそこそこ美味しいと言う事で、毎度結構狩られていたりするようだ。

 とは言え、魔物はいくら討伐しても減らないし、そのままにしておけば増加するし、その辺が色々と厄介と言うか面倒と言うか。


 でも、魔物が居るのがマイナスばかりではないっていうのもあるから何とも難しい所だ。


「結界の外を少し調べてみる?」

「そうですね……もし、シルバーウルフに怪我させられるような魔物がこの結界のすぐ近くに居たら厄介ですし、調べてみますか」


 一応、霊体化して居れば魔物と遭遇しても問題無いのだが、この状態だと知っての通りすり抜けるので、何も掴めないと言うデメリットがある。

 メリットの方が大きいけど、それでも掴めないっていうのはちょっとね……それもあって、基本的にはアクアたち大精霊もティタも実体化の状態で居る。


 僕も霊体化出来るけど、元が人間っていうのもあってあの状態って強いんだけどあまり慣れないし不便なので、こっちの状態で居る。


「取り敢えず、そのシルバーウルフからは敵意も感じませんし、フォンセに懐いているようですから結界内に入れても問題はないでしょう」

「ん。ありがとう、ティタ」

「いえいえ」

「あれ? 魔物とかを寄せ付けないために結界があるんだよね? 入れて大丈夫? 結界に触れた瞬間、弾かれたりとかしない?」


 結界内に入れても大丈夫、と言っていたがそこで疑問に思い、問いかける。

 魔物とかを寄せ付けない為に張ってある結界だ。仮に魔物が結界に触れたら、弾かれたりとかこう何て言うのかぐちゃとかなったりしない?


「それは大丈夫です。この結界の主な効果は見えないようにするというものですからね。近付いても方向感覚を狂わすようにしているので、普通は見つけられません。それでもたまに迷い込む魔物とか人が居たりするんですけどね」

「後、この結界はティタが張っているものだからティタが許可すればその対象は普通には入れるわよ」

「なるほど……」


 ハイテク過ぎないか? 気にしたら負けだろうか。


「取り敢えず、入ってください。私たちはちょっと周辺の調査をしますので。フォンセは……シルバーウルフが離してくれなさそうですね。ルミエールを呼びますか」

「それが良いわね。他の大精霊にも言っておきましょうか……来るかどうかは分からないけれど。ネージュは危険だからフォンセと一緒に中で待っててね」


 火と土、風の大精霊にはまだ会えてないんだよなあ。

 あ、正確には火の大精霊とは一応念話を通じて、話せたから実質は残り二人か。火の大精霊も女性っぽくて、何て言うか男っぽい喋り方をする人だった。でも、僕の事を気にかけてくれていたので良い人なのは確か……だと思いたい。


 来られない理由は何か、少し遠くにある火山が暴走しているようで、それに対応しているからだそうだ。火山が暴走って、何が起きたし……。

 今の所は何とか抑えられていて、詳しく調べている最中だそうだ。だからこっちで会えるのはもう少し先になるかな?


 火の精霊が暴走している可能性もあるらしいから、まあ、火の大精霊が調査するのは妥当かなって思う。


 でだ。風と土の大精霊についてはティタが精霊王として連絡を取ってくれたので今何をしているかは把握できたらしい。

 まず、風の大精霊は暴風地域……年がら年中強風の吹き荒れる地域があるらしいのだが、そこで己を鍛えているとか。


 土の大精霊は、今鍛冶屋としての仕事がたくさんあって、手が離せないとの事。

 なんでも、土の大精霊であるノームさんは人間を装って、そこそこの腕の鍛冶師としてお店を開いているそう。

 更にそんな鍛冶師をしつつ、果物とかの栽培もしているみたいで、それらを売ったりもしているそうで、こっちに戻って来る時とか、良く自分の畑で取れた果物を持ってきてくれるんだとか。


 ……大精霊、自由過ぎない?


 少なくとも、僕の事を聞いて避けているとかそういう感じでは無さそうなのでちょっと安堵する。


 そんな事を考えながら、僕らは結界の中へと戻っていくのだった。全員と会えるのは何時になる事やら……。




『あとがき』

女の子と、動物(魔物)って良いよね。

精霊と魔物だけど←



ブクマや☆等、ありがとうございます。

中々マニアックと言うか、そんな作品ですが、これからもよろしくお願いいたします。

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