第〇九話:精霊たちとの戯れ


「……♪」


 ついつい鼻歌を口ずさんでしまう。

 毎回思うけれど、ここはやっぱりのどかで心が落ち着く。今日は、特に予定もなく湖周辺を適当にぶらぶらしている感じだ。もちろん、結界の外には行っていない。


 結界。

 まあ、名前の通り結界は結界だ。精霊王であるティタが一定の範囲に発動させている結界によって、この場所は守られているようで、魔物が入ってくる事はほぼない。だからこんな平和というかのどかな訳だ。

 と言っても流石の精霊王でも、森全体に張るのは難しいらしくて、この湖を含めて一定の範囲にのみ張っているそうだ。精霊の森ってこのラックフォレ大陸の三分の一を占めている訳で、そんな広範囲を張るっていうのはきついと言うか、そもそも維持もするしかないからね。

 でだ。この結界内は平和ではあるけれど、たまに迷い込んでくる魔物や人も居るそうだ。迷い込んできた場合は、魔物ならば追い出すかもしくは討伐。人ならば記憶をなくして森の出口に送るそうだ。


 話が逸れた。


 結界の外には行っていないけど、外側には人間たちの住む街とかがあるみたいで、少し興味がある。やっぱり、どういう生活をしているのかとか、気になっちゃうんだよね。そのうち行こうかなと思っている。

 魔法とかにも大分慣れてきたし、魔物とも実際戦った(戦わされた)し、外に行く分には問題ないと思っているけど……話を聞いた感じだと、やっぱりというか何というか……ならず者? みたいな奴らも居るっぽい。


 盗賊とか山賊とかもそうだ。

 なので、もし外に行くのであれば、最低限自衛が出来るくらいになってからじゃないと危ない。まあ、僕の場合は精霊なので霊体化してしまえば、どうって事ないらしいけど。


 霊体化っていうのは、まあ名前の通りだ。

 精霊って本来は実体がないのが本来の姿だ。普通は触れないし、同じ精霊以外には見えない。もちろん、今のこの姿……実体化していれば、誰でも見えるけどね。

 霊体化の状態だと当然だけど、物に触れないので、何かを買ったりとか集めたりとかするなら実体化しないと行けない訳だ。文字通り、霊体だからね。障害物とか、特に特殊な何かがかかっていない限り、すり抜ける。

 だから確かに何のあれもなく、浮いたり障害物無視したりできると言ってもデメリットもあるって事だ。


 でだ。

 魔物なのだが、実際見た感じでは、確かに動物のような見た目だったり虫のような見た目だったりとか様々である。ただ、動物はまだしも、虫の魔物はちょっと気持ち悪かった。


 というのも、虫と言うには大きすぎる。

 全部と戦わされた訳ではないけど、蜘蛛の見た目をした魔物とかはちょっと、ね。小さいなら良いのだが、僕の今の身体よりも大きいとか勘弁して欲しい。


「うわ、何か思い出したら悪寒が……」


 でもな……もし外に行くなら慣れるしかないよな。

 ここは森だし、結界のお陰でここは綺麗ではあるものの、結界の外は普通に森であり、魔物も結構いる。この精霊の森は、結構色んな種類の魔物が出るという事で、この大陸にある二カ国内では有名となっている。


「まあ、魔物の種類が多いって事は、素材集めもこの森だけで出来る訳だしね」


 ただ、この森……奥に進むにつれて魔物が結構強かったり凶暴だったりするらしいよ。因みにこの湖はどちらかと言うと奥寄りの中央と言った位置にある。


「ん?」


 そんな事を考えていると、何時の間にか僕の周りには幾つもの光の玉が集まっていた。


「精霊……?」


 光の玉に見えるのは確か中位以下の精霊だったよね。


「どうかしたの?」


 大精霊のように人型ではないため、言葉での意思疎通は難しい。


「遊んでほしいの?」


 そう問いかけると、ふわりふわりと動く。

 確かに言葉での意思疎通は出来ないが、言葉自体は一応理解しているようで、身体を使って意思表示をしている様子。これはつまり、肯定という事だろうか。


 しかし、精霊と遊ぶといっても何をすれば良いのか。


「良いけど……何をするの?」


 んー……。

 何でどう遊べば良いのか……精霊たちも、その事に気付いたようで、何処か考えているような感じがする。光の玉なので、実際そんな顔とかは見えないが。


「どうしたの?」

「ん?」


 精霊たちと悩んでいると、そこに第三者の声が聞こえる。


「フォンセ?」

「ん」


 振り向いた所に居たのは、何と闇の大精霊のフォンセだった。

 あれ? フォンセって昼間は苦手じゃなかったっけ? 今、バリバリ昼間だけど……。


「日陰を使って散歩してた。苦手とは言え、じっとしているのも辛いものがある」


 僕が疑問に思っていた事を察したのか、フォンセはそう答える。今僕らが居るこの場所は一応日陰だから、フォンセも大丈夫そう? まあ、昼は苦手と言っても、別に出歩けない訳ではないらしいけどね。


「そうなんだ。うーんと僕はちょっとかくかくしかじかで」

「……なるほど。確かに困るね」


 ちょっと苦笑いをするフォンセ。

 中位以下の精霊は、人型になれないので話ができない。だから、遊んであげたいのだが何をどうすれば良いのか……。


「ん。何をして遊びたい?」

「……!」


 フォンセがそんな精霊たちに声をかけると、精霊の方が何処か畏まっているように見える。まあ、フォンセは大精霊だっていうのは理解しているだろうから、それで畏まっているのかも。

 精霊王の次に偉い? ちょっと違うかな? 取り敢えず、精霊王の次に偉い人って事で。それなので、畏まるのも無理はないだろう。


「なるほど」

「分かるの?」

「一応。この子たちは、かくれんぼをしたいみたい」

「かくれんぼかー」


 何か懐かしいな。

 子供の頃は良くやった気がする。妹とも、遊んだなー……元気にしているだろうか。


「ん。どうかした?」

「ううん、何でもない」


 ちょっと思いふけてしまった。


「フォンセもやる?」


 流石に大精霊だし、昼は苦手だし、やらないかな? ダメ元で聞いてみただけだけど。


「ん。ネージュが言うならやる」

「え?」

「ん?」


 いや、予想外の答えが返って来て驚いた。


「昼だけど大丈夫なの?」

「うん。苦手だけど、別に出歩けない訳でもないから」

「それなら良いけど……」


 折角なので、フォンセも含めて遊ぶとしようか。




□□□□□□□□□□




「またねー」


 そう言って手をふると、精霊たちも何とか返すべく体をふわふわと動かし返して来る。


「あの子たちもまたね、って言っている」

「そっか……ありがとう、フォンセ」


 精霊たちとは言葉が交わせないけど、フォンセを通じて翻訳してもらいつつ遊んでいたら、気が付けばもう日が暮れ始めていた。森から見る夕焼け……中々新鮮?


「ん。私も楽しかった」

「それは良かった」


 精霊たちをフォンセと、かくれんぼやら何やら色んな遊びをしたのだが、意外だったのがフォンセが楽しそうだった事。口数がちょっと少ないし、表情もわかりにくいフォンセだけど、今回は分かるくらい楽しそうな顔をしていた気がする。


「そろそろ、フォンセの時間だね」

「ん。夜は好き」


 闇の大精霊という事もあり、フォンセは夜が一番好きみたいだ。

 こう見ると、普通の女の子にしか見えないよなあ……見た目もそうだし、日本人としては黒髪黒目は身近な存在だから、フォンセの容姿には何処か親近感がある。


「どうしたの?」

「あ、ごめん」


 フォンセの事をじっと見ていると、首を傾げながら僕を見てくる。


「元の世界の暮らしていた場所では、フォンセみたいな黒髪黒目の人がほとんどだったから。ちょっと懐かしいと思って」

「そうなの?」

「うん」


 地球に帰れるのだろうか。

 この世界に来てから多分、二週間くらいは経過しているかな? その間は、ティタたちに色々と教えてもらいつつ、過ごしていた。すっかり、この森での暮らしには慣れてしまった。


 未だに残りの三人の大精霊にはあえてないけど、アクアとかルミエールそしてフォンセとは更に仲良くなった気がする。今日、フォンセと一緒に遊んだことでもっと仲良く慣れたような気がするよ。


「やっぱり元の世界に帰りたい?」

「まあ……そうだね」

「ん。でも元の体に戻れる保証はないよ?」

「それはそうだけどねえ……ティタにも言われているし。でも、地球には家族を置いてきちゃったから。元の体に戻れなくても、元気にしているかくらいは確認したいかなあ」


 もっと言うなら僕であるという事を信じて欲しいななんて思いつつ、僕は夕暮れの空を見上げるのだった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る