第〇七話:魔法と精霊の森


「水球!」


 僕がそう声を出すと、シャボン玉くらいの大きさの水球が飛んでいく。水球はそのまま真っすぐに飛んでいき、木の幹に当たると破裂するように消滅する。


「強風!」


 続けて、イメージしながら声を出すと、今度は僕を中心に周囲に強い風が発生する。落ち葉や、小さな枯れ枝などは、いとも容易く飛んで行ってしまう。


 精霊魔法。

 精霊が使う力の事で、様々な現象を発生させる力だ。いまいち、人間たちの使う魔法との違いが分からない。ぶっちゃけ、起こす事象は似ているので、一見するとどっちかは分からない。

 精霊が使う魔法だから精霊魔法なのかな? 因みにこの精霊魔法と言う呼び方は、昔からされているもので、今でもそう呼んでいるそうだ。


 どっちも、魔力を使うし、本当に何で呼び方が分かれているのかは、ティタたちも分からないらしいよ。


 精霊と人を区別する為、とかかな? まあ、そこら辺はそもそも、この世界の住人ではない僕には分からないので、勝手な想像でしかないが。


 でだ。魔法と言うのは、イメージが大事であり、イメージが明確ではないと魔法の発動が出来なかったり、暴発したりとかしてしまう恐れがある。

 水球だとか、強風だとか魔法を発動させるときに、僕が言ったのは声に出して言えばイメージをしやすいからだ。


 そんな声出さなくても、えい! とか、それ! とかでもイメージが出来ていれば魔法を発動させられるけどね。

 実際僕は、あの豆腐ハウス……ハウスと言って良いかは分からないけど、を作る際にそうやって発動させていた訳だし。


 アクアや、フォンセ、ルミエールたち大精霊のお陰で、魔法にも少しずつ理解が出来てきている。こうやって、毎日の練習も忘れない。


 異世界で目を覚まし、ティタに会ってから一週間くらいが経過した今、あの時会った水の大精霊アクア、闇の大精霊フォンセ、光の大精霊ルミエールとはそこそこ仲良くさせてもらっている。


 で。未だに残りの三人の大精霊とは会えていない状態だ。

 火の大精霊のイグニさんに風の大精霊のシルフさん、それから土の大精霊のノームさん。


 話を聞く限りでは、三人とも良い人みたいなんだけどね……でもそれって、アクアたちから見て、だよね。

 正直な所、僕は場違いと言うか異世界の人だし、仲良くしてくれるのかな? なんて思っていたりする。


 三人にはまだ会えてないけど、今ここに居る三人とは、自分でも仲良くできていると思っている。みんな優しくて、色々と教えてくれるから。

 ただ、集まる時間っていうのが昼ではなく夜が多いので、昼間はちょっと暇だったりする。因みに僕は今、ティタの所に居させてもらっている。


 後、フォンセやルミエール、ティタは呼び捨てなのに、何で私だけさん付けなの、とアクアに突っ込まれてしまい、アクアからも呼び捨てにして欲しいと言われたので、そう呼ぶようになった。


 何かアクアってお母さんみたいな感じがするんだよね。それを言ったら失礼になるかもしれないので、心の中に留めているけど。

 でも、水と言えば海。海と言えば地球では全ての生き物の母だし、あながち間違いではないのかもしれない。


 まあ、この世界の人はどう誕生したのかは分からないけど。


「大分、自在に魔法が使えるようになってきたわねえ」

「あ、アクア」

「一人で暇そうにしてたからついつい、声かけちゃったわ」

「まあ、昼間は暇だけどね……」

「ティタは他の三人と連絡とるのに忙しいし、フォンセは昼間が苦手。ルミエールも、あまり昼間は姿を見せないわね。光の大精霊なのに……」


 フォンセはまだ分かるけど、ルミエールは光の大精霊だし、昼間こそ元気にしてそうな気がするけどなー。


「ま、ルミエールの事だし、その辺で遊んだりするのに忙しいんじゃないかしらね。良く配下の上位精霊や中位精霊、下位精霊たちと遊んでいるみたいだし」

「そうなんだ。アクアは、何もしないの?」

「そうねえ……水の精霊たちは基本大人しいし、水辺で静かに過ごしているわね。私もその一人よ。水に特に異変が起きなければ、する事ないしね」


 精霊たちは基本、自由に過ごしているみたいで、遊んでいたり話していたり、寝ていたりと色々あるそうだ。

 精霊たちの役割は世界を見守る事だけ。それ以外は特に何もないので、まあ、精霊たちの意思で行動していると言う感じかな。


 興味のある人とかに近付いてみては、息が合いそうなら一緒に居たり、契約したりとか。


 そう言えば、よくよくこの森とか、湖近くとかを見ると小さな人型をした子たちを

ちらほら見かける。小さいので、意識して見ないとと気付けないくらい。

 後は丸い光の球体みたいなのがふよふよと浮いている。この光の球体と言うのが下位精霊や中位精霊だそうだ。


 少し前に説明してもらったけど、精霊には精霊王や大精霊以外にも、上位精霊や中位精霊、下位精霊と言った精霊も存在する。

 このうち、中位以下の精霊は人型にはなれないそうだ。たまになれる精霊も居るみたいだが、人型になる事に成功すると、上位精霊に格上げされるそうだ。これは下位精霊も当てはまる。


「のどか、ですねここは」

「知っていると思うけれど、ここは精霊の森って言われる場所なのよ。だから至る所に精霊たちがいるわよ」

「それで、時々見かけるんだ」

「そういう事ね。そしてこの森は、この大陸の三分の一を占めているのも聞いたわよね」

「ラックフォレ大陸だよね? 後、外には二つの国がある」

「その通りよ。ここはラックフォレ大陸。大陸の三分の一がこの精霊の森に覆われている場所ね。そして残りの面積には二つの国がある」

「確か……シュリア王国と、リフィア聖王国だっけ?」

「ええ、良く覚えてるじゃない」


 そう言ってにっこりするアクア。

 まあ、この世界についての知識だし、忘れないように何度か思い返したりしていたしね。


 この精霊の森は、どちらの国にもましては、他の国の領土でもなく、中立となっている。

 昔、我が領土にしようと、考えた国もあったが、そんな企みを持つ国の国王たちが次々と急死したため、誰も手を出さなくなったって言っていた。

 精霊が何かしたのかと、ティタに聞いたけど特に何もしていないみたい。本当に偶然のようだが、真相は不明なのは確かだ。


 同じ国で、この森を手にしようと考えた王はやはり急死したが、そんな考えのなかった王はそこそこ長生きしていたそうだ。

 まあ、確かにそんな差があると何かあると思って近づかなくなるよね。


 ただ、冒険者と呼ばれる人たちが魔物を倒すために来たり、素材とかを集めるために来たりとかはしているそうだけど。

 この森に生えている薬草とかは、結構質が良いみたいだ。


 冒険者、ね。

 そう言えば、冒険者についてはまだ聞いてなかったな。でもなんか、容易に想像ついちゃうのはやっぱりそういう系のを読んでいたせいだろうか。


 そこまで読んでいたつもりはないけど。


 アクアは知っているかな? これもこの世界の勉強と言う事で、一応聞いてみようかな。





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