第〇四話:大精霊とTS精霊幼女
「と言う感じです」
「なるほど……」
自分の身に起きた事を、全てアクアさんとティタに伝えた所で、二人は納得と言った顔で頷く。これは信じてくれたのだろうか?
「正直に話してくれてありがとう。なるほど、そう言う事なのね」
「違う世界の存在であれば、確かに私が感知できなくても可笑しくないですね。分かりませんけど……」
「異世界については、まあ確かに昔に言い伝えとかではあったけれど、実際見るのは初めてね」
「えっと……信じてくれるの?」
「ええ、嘘をついているようには見えないしね。それとも、嘘なのかしら?」
「いえ、紛れもない事実ですよ。実際、湖で目を覚ます前の事もはっきりと覚えてたし」
「ふふ、ならそれで良いじゃないの」
そう笑って見せるアクアさん。
「私としては、そんな可愛らしい見た目で、実は男だったって言う事に驚いていますけどね」
「そうね。身体も変わって、色々と大変じゃなかった?」
「うーん……来たばかりなので何とも」
言うて僕がこの世界に来てまだ一日も経っていない訳なので、気になるのはやっぱり下半身の喪失感くらいだろうか。
でも、これからが大変になりそうな気がしてならない。
「それもそうよね。今日だものね」
「これからが大変かもしれませんね。性別が変わってしまっているので、以前の感覚のままでは居られないでしょうし」
そうなんだよなあ。
すぐに地球に帰りたいって言うのはあるけど、僕の元の身体ってどうなってるのだろうか。部屋で寝ていて、気付いたらここに居た訳だし、別に死ぬことなんて起きてないよね?
それとも、寝ている間に死んでしまったのだろうか? でも、過労とまでは行ってないはずだし、そもそも僕が就職していた会社は、ホワイト……のはず。
残業もそこまでしてなかったし。
ならば、まだ生きているのだろうか? でも、今僕はこの姿になってしまっている。
「地球? と呼ばれる世界で暮らしていた時の、あなたの身体は何となくではありますが、もうない可能性の方が高い気がしますね」
「……」
「あ、ごめんなさい。ですが、元の身体に戻れる可能性は高くないと思ってます」
「やっぱりそうかなあ」
……。
元の身体に戻れない、か。何となく確かに僕も、そう感じているけど、まだ信じていたい。まあ、仮に元の身体に戻れなくても、地球へ行ける方法が分かれば、置いてきてしまった家族の様子を見られるはず。
ともかく、まだ諦める段階ではない。
本当に駄目なのであれば、諦めるしかないけど、まだ確信している訳ではないしね。ちょっとした希望は残っている。
「まあ、地球の事を今考えても仕方がないわよ。まずは、こちらの世界について教えるのが先決じゃないかしら」
「あ、それもそうですね」
そんな会話の中に入ってきたのはアクアさん。
アクアさんの言う通りだな……今考えても、何かが変わる訳ではないし。この世界については、僕は全く知らないので、それはありがたい話である。
「凄い今更だけど、そう言えばあなたの名前、まだ聞いてなかったわね。ごめんなさい」
「あ!」
「全く……ティタ、こっちの事ばかり話しても意味ないでしょ」
「面目ないです……えっと、すみません。名前聞いても良いでしょうか、何時までもあなたとかだと不便だと思いますし」
「名前……」
一応、自分の事も覚えているので名前も分かる。
「ヒイラギユウキ……変わった名前ですね」
「まあ、異世界だから変わっていても可笑しくいないわよ。でも、その名前の響きからすると、ヒイラギが家名ね?」
「え、分かるの?」
「え、そうなの?」
「何でティタが驚くのよ! この世界にも、変わった名前の国があるのよ。確か……やま、大和王国だっけ?」
「あー! 聞いた事がありますね。独自の文化や歴史を築いてきた国ですね」
「その国では、家名が前に来るのよね。因みにこの話で分かると思うけれど、一般的に家名は後につくわ。あなたの場合だとユウキ・ヒイラギと言った感じね」
「なるほど……」
この世界ではこの名前はかなり珍しいらしい。
で、さっきちらっと出てきたけど大和王国と言う国ではこの名前は一般的らしい。え、その国日本人が作ったとかじゃないの? 名前も凄い親近感がある。
でも異世界人なんて見たの初めてと言ってたし、違うのかな。
「名前にケチをつける訳じゃないけど、その見た目でこの名前は何か不揃いな気がするわね」
「確かに」
……。
いやまあ、性別も変わっているし、気持ちは分かるけどさ。
「いえ、名前を貶している訳ではないわよ」
「うん、そこは分かっているけど……」
確かにこの見た目で、日本人名って言うのは合わないかもしれないけど、でもこれが自分の名前だしなあ。
「家名があるのは貴族とかになるので、念の為違う名前を使った方が良いかもしれませんね。ユウキとかで良いんじゃないでしょうか」
「それだと何か物足りなくないかしら」
「物足りないって……」
それディスってるの? ディスってるよね?
……でもまあ、家名があるのは貴族、か。それなら確かにヒイラギの方はなくした方が良さそう。貴族って何なのって話だけど、何となくイメージはつく。
「ユウキと更に女の子らしい名前にするならユキかしら」
「ユキ……」
一気に可愛らしい名前になったな!?
「ユキっていうのもぱっと来ませんね。あ、それなら雪の意味を持つネージュって名前はどうですか?」
「あら、ティタにしては良い名前じゃないの」
「ティタにしてはっていうのは余計ですよ!」
あのーもしもーし。
勝手に話が進んでいるのだが? 僕の名前が原形を留めてないじゃん。でもネージュか……確かに響きも良いし、良い名前だと思うけどさ!
「どうかしら」
「どうって言われても……」
うーん。
良い名前だとは思うけど……でも、偽名と言うかこの世界での名前か。確かにあった方が都合が良かったりするか?
「もちろん、無理強いはしないわよ。でも、この世界での名前として持っておくのも良いと思うわよ」
「うーん。でも確かにユウキとかユキだと、確かに合わないかも。分かった。この世界での僕の名前はネージュで良いよ。ありがとう、アクアさん」
別に本当の名前が消える訳じゃないしね。
と言う事で、この世界での僕の名前はネージュ……それ行こう。
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