第四話 ~アルバイトの2日目、交友~

 木戸島優勢は、はあっ・・・と大きな息を吐いて、業務用パソコンのモニターを見つめる。


「木戸島さん、二日目にしてもうため息ですか」

赤井優は、ため息に反応して注意をする。


「ああ、ごめんなさい。

 仕事の事じゃなくてね・・・。

 赤井さん、モリガンさんにとって、僕ってやっぱり子供なのかなあ」



赤井優は、入力していたキーを止めて、優勢を見る。


「お姉ちゃんにとって?

 君、何考えてるわけ?」


「いやさ、モリガンさんとヴァンパイア協会へ行ったじゃん?

 その時にふと思っちゃったんだけど。

 モリガンさんって、あんまり年下過ぎる男は相手にしないかなあって・・・」


「お姉ちゃんに惚れたって言う話しかしら?

 言っておくけど、君じゃあお姉ちゃんと釣り合わないと思うわよ」


「なんだよその言い方、別に良いだろう、夢見たって。

 それに恋愛なんて、何があるかわからないじゃないか」


優勢は、声を荒らげて赤井優を見る。掴みかかりはしないものも、否定された事への憤りが隠れる事は無かった。


「じゃあ教えてあげる、お姉ちゃんって呼んでるけど、私達は本当の姉妹じゃないわ」


「そんな事わかってるよ」


そんな事は、ちょっと考えれば誰でもわかる事だった。そんな事は年の差恋愛に関係無い、的はずれな回答。


「モリガンお姉ちゃんはね、私のお祖父ちゃんのお母さんなの!」


「はあっ・・・?」


「本当よ、お祖父ちゃんを抱いてる写真もあるし。

 その頃と容姿は一切変わって無いわ」


「じゃあ、モリガンさんもヴァンパイアってこと?」


「本人は違うって言ってる。

 過去に色々あって、人間のまま長寿化しちゃったって」


「それに、お姉ちゃんは社長と同じ、魔法技術研究所の設立メンバーよ」


「それって・・・?」


「標語、あるでしょ。

 ちなみに、株式会社として社名を改めたのは14世紀頃らしいわ。

 真似した奴が史上初だと言われてるのを、社長はいつも怒ってる」


社長は海外出張中でまだ会っていない。でも会社で一番目立つ場所に、史上初の株式会社とデカデカと掲げられている。史上初は自負心じゃなくて、怒りが源泉だったらしい。

 この時点で、700年は生きている。さらなる追い打ちは続く。


「発足は、6000年くらい前。

 魔力が高い人達がはじめた研究会だって、お姉ちゃんが言ってた」


「だから、お姉ちゃんだけど。

 私にとっては本当は曾祖母ちゃんだし。

 本当かなんてわからないけど、君なんて何回生まれ変わっても無理なくらいの年齢差があるのよ。

 だから釣り合うなんて事は無いの、さっさと諦めなさい」



 とんでもない話し。でもさ、年齢差6000年ならもう一週回って大丈夫じゃない?

赤井さんの曾祖父さんとモリガンさんの年齢差だって、6000年くらいあるよね?

そんな二人が出会って、結婚したんだ。すごい希望が湧いてくる。


「釣り合う男になれば良いんだろ・・・」

僕は一通り考えた後、ひとりごちた。



「絶対駄目!」

赤井優は、机を叩いて優勢を驚かせる。


「なんでだよ・・・。赤井さんは関係無いじゃんか」


「関係あるの!

 あたしにとってお姉ちゃんだし、曾お祖母ちゃんだって言ったでしょ。

 万が一があった時、君の事どう言えばいいのよ!?

 君があたしの曾お祖父ちゃんになるの?

 あたしと同い年の君と、あたしはどう接すればいいわけ!?」



「・・・?。

 確かに!」

思わず納得して、僕は手を叩いて同意してしまった。

それと、赤井さん同い年なんだ。


「赤井さん、僕と同い年なんだ。

 いつからここでアルバイトしてるの?

 今年高校生ってことだよね?

 すごいね、こんなになんでも知ってて。

 かっこいいなあ」


「お姉ちゃんが駄目なら、次はあたしってこと?

 そんな軟派な人は、あたし好きじゃないわ」

赤井優は、優勢を真っ直ぐみて怒る。


「えっ!?

 軟派とかじゃないって!

 赤井さんも可愛いとは思うけど・・・!

 それに、僕は今の所モリガンさん一筋だから硬派だよ!」


それを受けて、赤井優は赤に染まる。

「・・・っ!?

 それは駄目だって言ってるの!?

 お姉ちゃんは駄目!!」


「じゃあ赤井さんなら良いの?」


「それも・・・。

 駄目!」


「じゃあ、

 僕、どうすれば良いのさ・・・」


「恋愛なんてしなくて良いの!!」


「ええ・・・。

 僕、デート費用のためにバイトしてるんだけど」

優勢の言葉が部屋に染み込み、時計が丁度12時を回った事を部屋中に伝えていた。





 少し気まずいお昼ごはん、僕は母さんが作ってくれたお弁当を食べていた。

隣に座る赤井さんも同じような感じ、チラ見すると、可愛いお弁当箱に色々なおかずが入っている。

「赤井さん・・・。ごめんね。

 僕、赤井さんの気持ちとか考えて無かったよ」


 僕はこのアルバイトを辞めたくなんてない!

 モリガンさんも居るし、赤井さんだって可愛い。それに知らない、今まで知らなかった世界に触れていく事が楽しい。

 だから僕は、こんな気まずい状態を続けるくらいなら、前へ進む。


「曾お祖母ちゃんだけど、お姉ちゃんって呼ぶくらいだもんね。

 赤井さんにとって大切な人なんだなって、反省した」


「・・・。

 いいわよ、あたしの方が変なこと言ってた。

 ごめんなさい」

赤井優は、見るからに意気消沈した様子で、弁当箱を見ながら謝る。


 やっぱり気まずい・・・。

謝ったし、謝られたんだから終わりにして明るく行こう!


「そういえばさ、赤井さんのお弁当美味しそうだね。

 アスパラの肉巻きとか、惣菜とかも小分けされてて、綺麗だね。

 母さんも作ってくれたけど、冷凍のやつと昨日の残りなんだよなあ」


「綺麗に出来てるかな?ありがとう、木戸島さん。

 高校も始まってお弁当になるから、

 最近はお母さんに手伝って貰って、自分で作ってるの」


「へえ、自分でやってるんだ。

 うちの母さんより上手いかも」


「ん・・・。

 褒めたってなんにも出ないわよ」

赤井さんは、少し照れくさそうにしてお弁当を守る。


「ええ!?

 いいじゃん期待したって〜。

 こういう時はさ、優勢くんに分けてあげる、はい、あ〜ん。

 とかやるものじゃないの?」

優勢は演技立てて、何もない空間を食べて見せる。


「ば〜かっ!

 そういう事は恋人同士とかでやりなさいよ」


「いやいや、何事も練習だって!

 赤井さんだって恋人に、あ〜ん、とかしたくない?

 僕と練習しようよ」

優勢は赤井優に近寄り、再度空間を食べる。


「いや、まあやりたいって言えば、やりたいけど・・・」


「でしょ!?

 ほら練習。あ〜ん」


 赤井優は、少し恥ずかしそうにフォークでアスパラを取り上げてみる。

少し震えている手がフォークに伝わり、徐々に優勢の口元へと近づいていく。優勢の顔はみるみるうちに緩み、鼻の下だって伸びていく。


 だってそうだろう!こんな可愛い娘とラブラブな感じであ〜ん出来るなんてさ。至福の時さ!

 そうして届いたアスパラの肉巻き、狙いを定めて獲物を捉えようと動く優勢。残念ながら定めた獲物は引き下がり、優勢は空間を食べてバランスを崩した。

 とっさな事に優勢は、そのまま赤井優に倒れ込んで、つい手をついてしまった。ついた先は赤井優の肩、それでも優勢の勢いが止まらず、肩からはずれて柔らかい感触へと着地する。

 その瞬間、電流が走った。モリガンさんの時のようなものとは違う、恋に落ちたとかじゃなく、本当に電流が落ちたというか、静電気かな?バチッとした。


「このスケベ!

 エッチ!バカ!」

赤井優は、優勢の手を振り払って怒る。まあそれはそうだろう、わしづかみにしたからね!思ったより硬いのは、下着の感触なのかな。でも柔らかいよね!


「いや!ごめん!

 でも、バランス崩しちゃったんだって!

 あ〜んが失敗しちゃったからさ、アスパラが居なくなっちゃったんだもん!」

大焦り、身振り手振りでとにかく弁明していく優勢。


「それに何?

 静電気みたいにバチってなるしさ。

 君なにか帯電でもしてるの?

 電気系の魔法特性でもあるのかしら」

赤井優は、暴れる優勢を取り押さえて話す。右手のフォークは、まだアスパラを離してはいない。


「あ、赤井さんもバチってなったの?

 なんなんだろうね、アレ。

 一目惚れすると、電流が走ったみたいになるって言うけど、それだったりして」


「何言ってんのよバカ!

 やっぱり、あ〜んなんて君とするのはおかしい!

 一目惚れだってありえないわ」


「予行練習だって!

 アスパラ!」


 赤井優は、フォークのアスパラを目で追う優勢を冷ややかな目で見つめる。

 そのまま赤井優は、アスパラを自分の口へ運び入れてしまうのだった。その光景を優勢は黙って見過ごす事しかできず、ガックリと肩を落とした。





 その日の夕方、仕事が終わり、皆が帰路につく。株式会社魔法技術研究所も同じ。企業の性質上では24時間の対応が求められている。それでも日勤者はやはり、夕方には仕事を終えて会社を出る。

 赤井優と木戸島優勢も同じ、二人は同じ駅に入り、同じ電車で少し談笑してそれぞれの駅で降りた。当たり前で普通な、いつもの日。

 赤井優は、夕焼けに少し輝く赤が入った髪をなびかせ、一人歩いていた。


「ふうっ。

 木戸島さんって、調子が良いって言うかなんというか・・・。

 色々話しかけてくれるけど、なんかこう女ったらしな感じするのよねえ」

赤井優は、首をかしげて独り言を出していた。この2日での優勢の印象は、やっぱり軟派なのだろう。



 長髪の男、顔色は悪い。切れ長の目に細い眉。青白い顔をして、黒い髪が目にかかる。春だというのに黒い長いコートを着て、男は一人、女性のあとを付けていた。

「今宵もいい夜になりそうだ。

 また、伯爵様に貢献出来るいい夜だ」


 男は踊る。喜びとともに。男の顔は東洋人には見えない、系統が違う。ヨーロピアン系と思われるほりの深さ、長いまつ毛に妖艶な魅力を持っている。

「さてここに取り出したるは、伯爵よりお預かりした崇高なる術式。

 これ使い、美しい乙女を我が意のままに操ってみせましょう」


演劇じみて男の舞台が続く。

「確かにお姉ちゃんは綺麗だし、スタイルも良いし。

 お姉ちゃんに惚れた癖に、なんであたしと恋人ごっことか・・・。

 本当バカなんだから!」


赤井優の独り言、それは演劇の舞台に上げられた。男が彼女を舞台に上げて、演目は繰り広げられる。

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