第16話
いや、普通にダメだろ。
男女一つ屋根の暮らし、もう手遅れな気はするが、
何の関係もない人を家に招くことはいいことだろうか?
否。
空はそう声をかけようとするが一つ気がつく。
これで自分が断ったら、アイはどうなるのか。
普通なら保護されるだろうが、アイは戸籍がない
言わば、不法入国している状態だ。
逮捕という言葉が頭によぎる。
いきなり、知らない場所に連れてこられたというのに不憫がすぎる。
助けたのに自ら危機に落とす、というのも気持ちが悪い。
そして、ふと魔法を思い出す。
「まぁとりあえず、聞くだけ聞いてみますよ」
幸い、親はいない。
3ヶ月くらい・・・・・・頭がおかしいとは思うが、母が無理矢理連れてったと考えれば辻褄が合う。
義父はともかく、母は実際に頭がおかしいから・・・・・・
「義姉さん。瑠璃次第か」
瑠璃は、まぁ大丈夫だとは思うが
どう思われるかは別だよな。
アイは深く頭を下げて、"この御恩はいつか必ず"といっている。
しかし、本当はお礼を言いたいのは空の方だった。
空にかかった幻想の光。
あんな経験は、生きている上で遭遇しようのない出来ごとだったし、美しかった。
空は気にするなと言いひたすらに歩く。
すっかり暗くなってしまったが、
周りの家の電気がぽつぽつとつき始めて、仲の良さそうな声が通っている道には、飛び交っていた。
アイは、それを聞いてどこ懐かしく悲しそうな表情をして、呟く。
「平和なのですね」
「否定はしないな」
空達は、静かに何も話さず、声が飛び交う暗い夜道を二人で孤独に歩いた。
涼しい風が二人を励ますように撫でる。
アイはそれに驚いて、少し飛び上がった。
「▲▲▲▲▲、▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲」
アイはそう呟くと、周囲に蛍がいるように辺りを少し照らす。
しかし、街中に蛍がいてある一定の人物を追いかけるという現象は、周囲の目からはどう映るか、想像がつく。
空はアイに消すよう頼むと、渋々それを消してくれたが、空自身も少し残念がっていた。
アイは怖いのか空の服を軽く掴む。
空は困ったような顔をするが、震えるその手を感じとり、諦める。
男らしく手を握ってあげるかどうか悩んで歩いているうちに、交番を見つけた。
あたりが暗いせいか、その交番は街頭の白い光に照らされて異質な雰囲気を醸し出している。
空達は、息を呑んで交番の中へと入っていくが、そこには親切な警察官が一人だけいて、
道をわざわざ地図を使って説明してくれた上に、メモまで渡してくれた。
その時、アイは少し警察官に怯え空の後ろに隠れていたが、道を聞いた後、その警察官に笑顔で"気をつけて帰るんだよ"と優しく言われると、
アイは、ペコリとお辞儀をして交番を逃げるように出る。
「いい人そうでした」
「そうだな」
その笑顔を作り嬉しそうなアイを見て、空はつられて笑ってしまう。
「空様は、なぜ私を泊めてくれるのですか?」
「あー。可愛いから?」
「私の貞操が目的で?」
空は、バッとネジ切れる勢いでアイに弁明しようと振り向くが、アイが悪戯っぽく笑っていることにホッとした。
「同居人がいる事を自分で仰ってたではありませんか。お姉さんがいると」
空は自分の行動を思い返して、苦笑する。
午前に探索し尽くした真っ暗な学校を片目に通り過ぎ、もうすぐ家に着くことを悟る。
どう弁明するか・・・・・・。
それだけが空の頭の中で渦巻いていた。
瑠璃は、昨日会ったばかりの仲なのでそんなに知らない。初対面の人に優しくありそうな雰囲気は醸し出しているし、実際そうだった。
しかし、一つの懸念がある。
何の弁明もせずに逃げ出した空が連れてきた子を、受け入れてくれるかどうか。
空は、どう対応するべきか考えていると家の前へ着いてしまった。
家の前で突っ立っているというのもおかしいので、空は覚悟を決める。
空は深呼吸をして、自宅のチャイムを鳴らした。
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