第11話

「お前、自殺願望あるだろ」


 空は転校初日でどうだった的なことを聞かれると思っていたため、突然のことで何が言いたいのか分からず、ただその担任を変な目で見る。


「は?」

「お前のその目。見覚えがある」


 担任が見透かしているように空を見た。

空はその目に酷く不快感を覚える。


「どんな目ですか。」

「何にも興味のなさそうなその目。他人に決して本心を明かさないその態度。誰にも絶対に明かさず本気で自殺する奴の特徴だ」

「そんな奴、自殺しなくてもいっぱいいるだろ」


 担任は深く溜息をつき煙草を取り出すが、空を見て辞める。


「そういう奴、1人見てんだよ。あいつはいつもヘラヘラしてて、馬鹿やって悩みの無さそうな奴だった」

「聞いてない」

「まぁ、聞け。お前が自殺したら、俺の評価に関わるんだ」


 担任はダルそうに煙草をチラチラと見ながら、空に言う。それを空は軽蔑の目で見つめる。


「関係ないし、自殺願望ないって言ってんだろ」

「じゃあ、なんでキレてんだ。ってか、吸っていいか?」

「キレてないし、いいわけないだろ。もう既に煙たがってるのわかんないのか」


 空は頬杖をついて担任を睨むが、担任は大声を出して笑った。


「上手いなお前。小説書いてみたらどうだ?」

「やだよ、面倒くさい。」

「いや書かせる。夏休み課題に絶対出すからな」


 空は溜息を吐いて、眉を顰める。


「帰っていいすか?」

「お前が話すまで帰さないからな」

「完全下校時刻って知ってる?」


 空は耳にイヤホンを付け出し、携帯をいじる。


「まぁ、携帯はいいから。イヤホンだけ外せ」


 担任はそう言って、空のイヤホンを外した。

空はそれでもお構い無しに、携帯をいじる。


「俺が高校の頃、1人の男がいた。

 そいつはいつもヘラヘラしてて、ふざけては教師に怒られるって言う生活をしてたんだ。


 だけどな、そいつはある日、突然自殺した。


 俺は頭の中で何故と言う言葉が渦巻いたよ。明るくて、ムードメーカーみたいな所もあったからさ


 だから、遺書を読んだんだ。

そしたら何が書いてあったと思う?」


 空は無視して、携帯をいじる。


「最初に一言、『孤独』____って書いてあった。

 

 俺らは思ったんだよ、おかしい。あいつは友達が沢山いたはずだ。

 孤独なはずが無いってね。だから、馬鹿みたいに殺人を疑ってたよ。


 だけど、そっからの文がな。・・・・・一字一句覚えている。


 『みんなが好きなような自分を演じては傷ついて、馬鹿にされる度に嫌悪感や怒りをしまい込んで、ストレスを溜めていた。自分で自分を晒すのが怖いくせして誰かに救って欲しかった。・・・・・我儘なこんな願いを叶える奴なんかいない。だから、俺は今から死ぬ』


 ってな。俺らは気づいたよ、俺らが見ていたあいつは作り物で、あいつの本心を見ていてやらなかった。

本当の友達になれてやらなかったって本気で悔やんだ。


 だけど、俺はまだ死ぬまでの事か?と思っていた

俺は最低な疑問を抱えながら葬式に行ったよ。


 そしたら、あいつの母親なんて言ったと思う?


『WI-FI切っただけで、自殺するほど頭がおかしいとは思わなかった』って言ったんだ。


 あいつの遺書をあいつの母親は、後付けだと信じて疑っていなかったんだ。


 あいつはストレスをおそらくネットか何かで発散して心の安定を保ってきてたんだと思う。


 それをあいつの母親は『依存症』と、ただの一言で済まして断ち切っていた。


 依存するのには必ず理由があるってこと、まだ気づかない頭の足りないその母親に世間に苛ついた。


 あいつには誰一人として味方がいなかった。

敵か。無関係か。


 だから俺たちは、敵だったあいつの母親のせいであいつは死んだって責任転嫁したんだ。


 あいつの母親は自分なら自分ならとかほざくから、俺は言ったよ。

 『あいつはお前なのか? 本当にあいつの苦しみを理解していたか?』ってな。


 そこから始まったのは言い合いだった。


 それでわかったのは、いつも家では暗い奴だったこと。


 あいつが元被虐待児だったこと。


 本当に好きなことをやらせて貰えず、親に強制された物だけやらされてたこと。


 あいつの母親はあいつの本当のことを何も知らないこと。


 あいつに、ストレスという概念が無いと思っていること。


 あいつの叫びが反抗期で終わらせられてたこと」


 担任は空がいるのにも関わらず、煙草を咥えて火をつけた。


「俺はそっからあんまり覚えてないな。

殴り合いが始まった気がする。


 俺は当時、思春期で色んな悩みもあったが、あいつを見ていると悩みがどうでもよくなって、解決できたなんてよくあったんだ。


 よくよく思い出してみれば、あいつが暗い目している時はたまにあった。


 それが今のお前の目だ」


 担任は、空を睨みつける。


「俺はもう後悔したくない。話してくれないか?」

「話すことはない」


 空はバッサリと言い切って、鞄の整理を始める。


「自殺の動機なんか、他人が聞けばそれだけで? ってなるのがオチだ。実際、お前だって、最初になってただろ。俺が、話す筋合いなんてない。ちなみに、俺の家族仲は結構良い方だし、相談できる人はいる。無関係だ」


 煙草の煙が充満する前に、空は相談室を出た。



 担任は、そうか。とただ一言呟いて、校長に減給を言い渡されるほど説教されるまで黄昏れていた。

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