第12話
空が家に帰ると、一つの紙を見つけた
『新婚旅行行ってきまーす。9月には帰る』
ちなみに今は6月下旬である
「はぁ?!」
世界一周でもするのだろうか
空は置いてあるチケットを見て溜息をつく
空はソファに寝っ転がり、テレビをつけて
担任の言ったことを脳内で反芻させる
しばらくすると、誰かが鍵を開ける音が聞こえた
「おかえり」
空はそう声を掛けるが返事がなかった
あの瑠璃が返事を返さないことが信じられない
空は不審者かと思い身構えて、リビングの扉を凝視する
ガチャリと開く音と共に出てきたのは、瑠璃と瑠璃の軽蔑の目だった
空は一瞬、安堵するが
その次に飛んで来たのは言葉が衝撃的だった
「貴方がそんな人だとは思わなかった」
空は最初瑠奈の言っていることが理解できなかった
言葉の意図がよく分からず首を傾げる
しかし、窓から映った悪い笑みを浮かべる見知った女の子の姿が横切るのが見えて、全てを察した
『ああ、またか』
「さっき、空に虐められてきたっていう女の子と会ったんだけど」
冤罪
空は中学の頃、色々あっていじめ冤罪をよく受けた
冤罪とはいえ、色んな人からの信頼を失った
嫌いな人が怒られるのは楽しいらしい
かなりの間、続いた
その手がここまで伸びるとは思っていなかったが
空の中で積み上がりそうになっていたものが全て崩れ去る音が聞こえ、空の目から光が消える
空はもう瑠璃の声など聞こえなかった
聞くことを諦めた
その瑠璃を横切り外へと出る
最初は、空がしつこい一人の女の子をこっ酷く振ったことが原因だった
その発言のみを切り取られて、当時の担任に理不尽に叱られた
事実だったため、否定もできないし、酷く言いすぎたという罪悪感からそれを受け入れた
それがよくなかった
それが母に伝わり、母の信頼を失った
こっ酷く叱られ、泣かれもした
それが親友に伝わった、親友の信頼を失った
絶交され、言い訳もさせてもらえなかった
それから、揚げ足を取るようにクラス全員がいじめだと担任に報告されて、学校からの認識はいじめっ子となった
大人たちからの信頼を失った
それから、あらぬ事までも担任に報告された
弁明もできず、何も信じてもらえない
空の他の者への信頼を失った
全てを諦め、表面では見えない
内面的に孤立した
孤独_____
空の担任の友人と全く同じだった
海に日が溶けているようなその光景を見ながら、空は崖の上に座る
世界の全てが一つのように感じる中
後ろから吹く湿った風が、枯れかけている桜の花びらを持ってきた
それらが描くこの美しい景色の一部になっているようだった
空はふと、考える
「俺、勢いで動くタイプだったんだな。・・・・・・・最期の言葉は、何にしようか。」
空は崖の上を立つ
一歩、それだけにとてつもない重みを感じる
「よし、決めた」
空は一歩を踏み出した
空の体が重力に襲われる
空が飛び出した崖はかなり高い位置にあった
その上、潮が引いていた時間帯だったため
下が海といえど死んでしまう
空は自分の死を悟った
体に落下時特有の何かが体から抜けるような不快感が走る
空は美しい景色から、目を離し真下の海面を見る
「ダッセェな俺」
空はそう思い苦笑する。
未練しかない。
それでもいい
全てを空は諦め
海を目の前に目を閉じる
浮遊感や風を感じなくなり、痛みなく自分は死んだ
のかと思い空は目を開けた
目の前にはテンポ良く通っていく波と海がある
一瞬、あの世かと思った
なぜなら、上を向いていた顔を元の位置に戻すと天と海が反転しているからだ
空は宙に浮いていることにすぐ気がつく
「は?」
そう空が驚きのあまり声を出すとドボンと海面を破り、海水を身に纏う
空は焦りながら体の力を抜き、海に浮かぶ
(生きてる?浮いてた?なんで?)
頭の中に先ほど起こった不可解な現象の理由の解を求める
波が落ち着けと言わんばかりに空を揺らす
それにより、少し落ち着いた空は赤く染まった天を見上げる
すると、天の一部が暗くなった
その次の瞬間、空の体に衝撃が走り、海に沈んでいく
(なんか、天から落ちてきた)
沈んだ空が、海の中で目を開けると
白い髪、白く長いまつげ、頬のあたりすこし赤みがかっていたが綺麗な肌をした女の子。
どこか冬兎を連想させる少女がそこにいた。
空は一瞬、見惚れるが息ができないことに気がつく。
急いで少女を抱きかかえ、海から顔を出す。
「えっと・・・、君は?」
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