第五章 ②
...............。
......。
.....................。
.........、..............................?
......。
「——おい、詩遠。そろそろ昼だぞ」
...............。
...........................? .........。
.........。
......。............、....................................。
...............?
...............。
......、..................。
.....................、............?
...............。
...........................、............。
「おーい」
............。
.........、.....................?
「おい!!」
「...............」
............、.........。
......?
...............、.....................、......。
「.........なぁ詩遠。あんた、向こうで何があったんだ」
...............。
..................、...............?
「おい!!! 詩遠!? ちゃんと生きてるか!?」
「..............................はっ」
............? ............。
.........俺は、目を醒ました。
いや、実際には寝ていた記憶なんてこれっぽっちもないんだけど。
「......よ、良かった。かろうじて目に光は灯ったな」
......そして、今はどういった状況なのだろうか。視覚情報だけだと、母さんが額に掻いた汗を拭いもせずに胸をなでおろしているといったことしか分からないんだけど。
俺は小首を傾げた。
......そしてその反動かは知らないが、心なしか頭がズキンと痛む。少々寝すぎてしまっただろうか。いや、そもそも俺は寝ていないが.........
「............えっと、それで母さんはどうしたの?」
俺は、腰を抜かしたように床に座り込んでいる母さんにそう聞いた。
「どうしたもこうしたもないよ。昼になっても起きてこないと思って様子を見に来たら、死んだような目でずっと何かをぶつぶつぶつぶつ言ってんだから」
世にも恐ろしいものを見たと言わんばかりに、怯えたような目つきをこちらに向ける。気のせいかもしれないが、若干、手なんかも震えているように見える。
.........っていうか、俺が? ぶつぶつと?
全くそんなこと憶えていないんだけど............
「それ、幻聴とかなんじゃないの?」
「幻聴? それだったらどれだけ良かったことか」
やれやれ、と言わんばかりに少し大げさに肩を竦める母さん。......いや、本当に覚えがないんだけどな。まぁ、それに関してはそんな今さっきのことに限らないけど。
というのも、何故かは知らないが、ここ最近のことを思い出すことができないのだ。なんだか、記憶にカギが固く掛けられているかのような。
しかし、それに関しては俺もおかしいと思っている。具体的に何かとは言えないが、今思い出せていないことの中には、とても、とても大切なことが含まれていたような気がする。
「......それでさ詩遠。あんた、向こうで何があったんだ? あまりにも様子がおかしすぎる」
怪訝......というよりかは不安の目をして、母さんは問うてくる。しかし、『向こう』なんて言われても、さっきも述べた通り俺には何が何だか分かったもんじゃない。
必死に頭をはたらかすも、駄目。思い出そうとするほどガンガンと頭が痛み、その痛みは思い出そうとすることを躊躇してしまうほどのものだった。
「.........ごめん、母さん。俺さ、ここ最近のこと全く思い出せないんだよね」
俺がそう言うと、今まで疲れ気味だった母さんの目は、微妙に見開いた。
「......それ、本当に言ってるの?」
俺は黙って首肯する。
すると母さんは、顔に手をあてながら大きなため息を吐いた。
目の下にクマも作っているみたいだし、やはり相当疲れているのだろうか。
......なら、あんまり手を煩わせたくないな。母さん、ただでさえ仕事で忙しいのに。そう思い、俺はまた今度でいいよ、と軽く言った。
母さんは何か知っているみたいだけど、幸いなことに今週末は三連休で、まだ二日休みがある。少々ゆっくりしてからでもいいだろう。
そう、俺は思っていたのだが。
「......何言ってんの!? そんなことしてたら手遅れに.........って、あんた本当に忘れてるのね」
母さんはそうは思わないようで、そんな言葉で俺を怒鳴りつけた。
そしてその後、ゆっくりと、まるで俺の記憶にかかった鍵をやさしく解錠するかのように、話を始めた。
「......その忘れ具合だと、悠姫ちゃんの魂が蘭ちゃんに宿ったことすら忘れていそうね」
自分で思い出そうとしているわけでではないのに、頭がチクりとまるで針で刺されたかのように痛んだ。
しかし、まだまだ頭上には疑問符が浮かんでいる。
悠姫の魂が、紫水に宿る.........? 母さんは何をそんな奇妙でよくわからないことを......。
「これでも思い出せない? ......なら、そうね。あんたはこれから、一生に一度しかないような大切な選択をしないといけないわ。悠姫ちゃんを生かすか、蘭ちゃんを生かすか」
なんだか、無理矢理鍵穴に鍵を押し込まれているような感覚に陥る。
......頭が、痛い。吐き気もこみあげてきている。......なんだ、なんなんだ? 俺が思い出せないことって.........。
......と、その時。
「!?」
さっきより一層強い吐き気が、喉元までこみあげてくる。思わず俺は口を手で塞いだ。
それと同時に、海馬と大脳の奥底から、記憶が走馬灯のように駆け巡る。
脳が破裂しそうなほどの痛みと同時に、ガチャリと、記憶の鍵が開く音がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます