第5話 手の温もり
いつからだろうか、君が近くにいるだけで目が勝手に君に向かうのは。
いつからだろうか、君の顔を見るだけで自分の顔がとても熱くなるのは。
いつからだろうか、君を好きになったのは。
〜3年前〜
私は中学生の頃とても成績が悪く見た目も地味で根暗で何一つ特技が無かった。
それもあってか小学生の時はよく皆から、机に酷い落書きをされてたり、わざと
かは分からないけど食べ物をかけられる事なんかも良くあった。
…だから引っ越して中学生として新しい学生生活をしようとしたけど……状況は変わらないどころか悪化していた。
「戸端!なんでこんな問題も解けないんだ!…ホントにお前ってやつは教科書も毎日忘れて!」
「ご、ごめんなさいぃ!」
「戸端さんかわいそ〜(笑)先生からもストレスの捌け口にされちゃってるよ〜。なんで教科書ないんだろーねぇ〜!私たちぃわかぁんない〜」
………………
「ねえねえ、海梨ちゃんってさぁ〜ちょっと臭くない?」「それなぁ〜!」
「………………」
……………
「いたっ!…なんでこんなことに画鋲が……あ、血が…」
……………
「海梨、先生から電話あったわよ。忘れ物が多いって。」
「……ごめんなさい。お母さん。」
………………
私は知っている、あの虐めている人達がいつも捨てているんだ。私の教科書を。もう限界だ、ここ最近は靴に画鋲が入ってたり体操服がいつもびしょ濡れになってカビが繁殖したり、それより酷いことなんて沢山あった。
……正直もうこの世から居なくなりたい。
…………
「戸端ぁ!もういい加減にしろぉ!何回忘れ物すれば済むんだ!!!」
「ごめん…なさい。」
「ププッ、海梨ちゃんかわいそ〜」
もう生きたくない。ここから消えたい。
そう思った時一筋の光が指した気がした。
「すいません、俺の教科書と戸端さんの教科書俺が2冊持ってました。」
そう「彼」だった。
「…佐藤なぜお前が持っている。」
「いやーこないだ俺のやつ家に置いてきっぱなしにしちゃって〜、そん時に戸端さんから借りたんですよね。だよな?」
嘘だ。私は知っている。彼とはその時まで喋ったことがなかったからだ
もう嘘はこりごりだ。……だけど彼の嘘は何だか信じてみたくなった。
「はい…そうです。」
「はぁ〜!?絶対嘘じゃん!名前書いてあるの?証拠は?」
「…ほら、見てみろ。書いてあるじゃん【
私を虐めているいつもの人たちをものともせずに対応し、私の名前が書いてある教科書を彼は私にくれた。少し開けてみると中には彼の筆跡を消した後が残っていた。
「すいませ〜ん、俺教科書忘れました〜」
「…伊藤お前も持ってくるようにな」
「はーい」
「きゃー!!忘れてる俊夜くんもかっこいいー!!」
「……チッ」
今一瞬「伊藤俊夜」の舌打ちの音が聞こえたのは気のせいだろうか。
…………
「なんで助けてくれたんですか?」
「だってよ、陽太」
「…困っている人を助けるのに理由なんているかな」
「ヒューヒュー!さっすが陽太さんだぜ!まじリスペクトっす!」
「う、うるせえな俊夜!…そういえばなんでお前も手伝ってくれたんだよ」
「ん?なんでって言われたらな……暇だったから?じゃね」
「…お前らしいな」
「…でっ、でもいいんですか?今度はあなた達がいじめのターゲットに…」
「ねーよ」「ないね」
「!?……なぜ?」
「「さあ?」」
「もう!全然分からないです!!」
「おい怒らせてしまったじゃねーかよ!お前のせいだぞ陽太!」
「はあ!?お前が理由ハッキリしないからだろ!」
「あのなあそもそもお前はな……」
「るせえよ、お前もな……」
「ふふっ…」
そう私は笑うと「彼」は少し微笑みながら言った。
「……やっと笑ったな。」
「え?」
「いやっ【陽太】はさ、『戸端さんの笑った顔かわいいからもう一度見たい』とか本当は言ってたんだぜこいつ!…くぅ〜隅に置けないねぇ!」
「おい!!それ言うなっていったろ!」
「……ほんと、なの?」
「……まあな、あと敬語使うのやめて欲しい。俺たち【友達】だろ?」
「う、うんっ!!」
なぜだろうか、この時は涙が出ているのにすごく楽しくて嬉しかった。
…………
「おい、生徒会長起きてるか?」
「う、うん!もちろん、成績不振者の君を指導してるからね!……ってかそれやめてって、君も中学の頃は生徒会入ってたくせに!」
「つっても何もしてないけどな、ただの書記だったし。あん時は副会長のお前と生徒会長の俊夜が凄かっただけ。……そういえばこの問題はどう解くんだ?」
「あーそうだったね!この問題は……」
「あっ、」「あっ……」
彼の教科書のページをめくろうとしたその時、彼の手に当たった。少しごつごつしてるけど優しい感触だった……気がする。少しだけ時が止まる、私は今どんな顔をしてるのだろうか。
「ご…ごめん」
「あ、ああこっちもすまん」
…………
〜帰り道〜
大雨が降ってきた様だ、彼は傘を忘れたらしく私の傘に二人入ることになった。
…この時間がずっと続けばいいのに、神様どうかお願いします。
まあ、こんな大雨じゃ神様も私たちのこと見えないか。
「悪いなお前の傘使って。」
「全然いいよ。……関係…ないけどさ、佐東マイナちゃんとはホントに付き合ってるの?」
「あーあいつ?いや全然、むしろなんで俺の近くにいるのか分からないくらいだ。」
「そ、そうなんだ!彼女新学期早々騒がしいからさ、気になって…」
どこか心の中でほっとしている自分がいた。…もしかして今なら彼を独り占め出来るのではないだろうか。
「珍しいな、お前がアイツのこと話すなんて。」
今なら行ける。
「そ、そうだね!と、ところで陽太っ!」
「ん?」
行ける。
「あ、あのねっ!」
行け。
「わっ私陽太のことっ……」
が、その時神様が邪魔をしたのだろうか。着信音が静かに鳴った。どうやら彼のお母さんかららしい、どうやら何か慌てている様子だ。
「えっ!?マイナが!?分かった、今すぐ行く!
…わりぃ傘ありがとな!ちょっと俺用事出来たから先に1人で帰るわ!」
……やっぱり付き合ってるじゃん。
………………
「ハアっ……はあっ……くそっどこいるんだあいつは…!」
友達との勉強会の帰りの途中突如母から電話があった。どうやらマイナが帰宅予定時間から2時間すぎても帰ってこないらしい。
アンドロイド…かどうかは分からないが、時間に厳しいあいつは、前もって言った時間ちょうどにはいつも予定場所には到着している。矢のような雨が俺の体をうつ、どうしてだろうかすごく胸騒ぎがする。
「もしもし!俊夜、マイナを知らないか!?」
「どうしたんだよいきなり、マイナちゃん?……何かやらかしたのか?」
「今はそんなことどうでもいい!!あいつの居場所は!?」
「……落ち着け。それに今回は恐らくだけどお前の問題だ、彼氏として気遣ってやるのは男の役目だろ。……まあ長年の付き合いだから俺のアドバイスを教えてやるけど。
おい陽太、【もしお前が転校して間もなくて思い出も少ないけど、一つだけ思い出の場所があるならお前はそれを忘れるか?】」
「……サンキュー」
「いいってことよ。」
………………
〜河川敷〜
もうどれくらい走っただろうか、足が小刻みに震えている気がする。正直息をするのも苦しくなってきた。
……だが「あいつ」はそこにいた。
「…バカ野郎!!なにやってんだ!」
「ヨ、ヨータ!?何でここが……」
「知らねえわけねえだろ!ここは俺たち【人生楽しんだもん勝ち部】の結成の地だろ!!」
「……ごめんなさい、ヨータやお母さんに迷惑をかけてしまって。私もう必要ないですよね」
「…っざけんなあ!!!そんなこと誰も思ってねえ!!母さんも!俊夜も!他の奴らも!……もちろん、俺もだ!」
「……ホントにっ、ホントにごめんなさいいっ!わ、私っ…陽太の……高校生活を支えるのに…満足に役目を果たすこともできずに……」
喋っているときにはもう彼女は、雨と共に大粒の涙を流していた。
そんな彼女をお構い無しに自分は言葉を返す。
「確かに…最初は俺はお前のこと変なやつだと思った。」
「……っ……」
「だけど!!そんなに時間経ってないけど、一緒に過ごして行く内に今までつまらない高校生活が楽しいと思えた!!それは誰でもねえ!お前、いや【佐東マイナ】がいるからに決まってんだよ!」
「……っ……ヨータ……」
「……ほら何座ってんだよ。濡れるぞ、手貸すから帰るぞ。」
「う……うん!」
そうして掴んだ手は、アンドロイドと言う割には 少しだけ 暖かい気がした。
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