第3話 部活

「はあ……」



いつも通り俺はため息を着きつつこの長い長い坂を登る。なぜかって?学校がつまらないからだ。

だが今日はため息の理由が違う、なぜか昨日の夕方に俺の家に「俺の許可無く」上がり込み、そして登校中も ピッタリ と整列するように俺の横に着きながら一緒に歩く。

そう例の女「佐東マイナ」だ。登校中に他の生徒や街の人ににジロジロと見られるのは俺からしたら生き地獄のようなものだ。だが、佐東マイナはそんなことを気にする素振りも見せずに俺の隣を歩く。



「あのなあ…なんで俺達一緒に登校してるんだよ」


「?何かありましたか?」


「…もういいや」



と、俺が思考を放棄しようとした途端、またまたあの男が声をかける。



「よっ陽太!おっ?今日は珍しくツレがいるんだな!良かった良かった、俺以外の友達が出来たようで……っておい!マイナちゃんじゃん!」


「おはようございます。h……いえ、俊夜さん。」


「おう!いやー今日もマイナちゃんは美しいねぇ〜!(今俺の名前間違えかけたよな?)ってかおい陽太ぁ!なんでお前がマイナちゃんと付き合ってんだよ!?

お前ら一体どういう関係なんだ!?」


「いや……まあな…」



今この男に俺とこの女の状況を知られるのはまずい。ここは何とか誤魔化そう、と思ったその時には「佐東マイナ」は口を開いていた。



「私とヨータは同じ家に住んでいます。【どういう関係なんだ】と聞かれるとそうですね……昨晩を経て【ナカヨシ】になったところでしょうか。」



ああ……さようなら俺の高校生活。



「へ、へえ〜そうなんだ!そしたら俺先に教室入っとくから!お二人さん仲良くね〜」


「はい、ありがとうございます。」



後でホームセンターでネジとドライバー買ってこようかな。




…………

〜教室〜


「起立、気をつけ礼。」



授業後の挨拶を終え、自分の席に再び着いてゆっくりする。

するとあの男「俊夜」が暗い顔をしながらこちらへ近づけていて来る。どうやら何か話したいような顔をしている。



「おい陽太、さっきの話マジか?あとお前ホントにマイナちゃんと付き合ってんのか?」


「少し語弊はあるが一緒の家に住んでいるのはマジだ。ちなみに付き合ってはない」


「マジかよ!?ってことは俺にもチャンスあるってことだよな?……よっしゃあ!……あ!後さ!お前とマイナちゃんに話したいことあるから!そしたら、じゃあな!」



良かったアイツが頭だけは良くなくて。さて、次の授業を受けるか。と自分の荷物を漁ったその時、


ゴソッ



「……ん?なんだこれ?手紙?」




どうやら俺の荷物の中に「謎の手紙」があった。誰かのイタズラだろうか?

モヤモヤとした感情を抑え封を開け便箋を見る。その便箋には真っ赤な文字で





お ま え の 罪 を 知 っ て い る





a.a





「うわあああああっ!!!!」


「!?どうしました?ヨータ!?…………これは手紙?……なるほどこれは随分と趣味が悪いですね…。」


「a.aという人物…俺の知っている限りのやつらには当てはまらないな。」


「どうします?先生に報告するのもありですが」


「いや、いい。面倒事はごめんだしな。」


「了解しました。」



だが俺はこの手紙を無視したことを暫く後悔することとなるのはまだ、誰も知らない。






…………

〜教室〜


キーンコーンカーンコーンと放課後の合図を意味する鐘の音が鳴る。この瞬間だけこの音色は俺ら学生にとって至福に感じる。

そんな俺の至福の時を邪魔する者が1人。



「なあなあ!陽太…それにマイナちゃんも!さっきの話なんだけどさ…」


「なんだよ俊夜、つまらない話だったら帰るぞ。」


「まあまあ聞けって!……お前ら【部活】に入る気は無いか?」


「帰るわ。」


「おいおいおい!待てって!【部活】つってもなぁ、俺が作る部活なんだよ!」


「……お前サッカーは?」


「あーそれならさっき退部したよ。」


「!!!」



おかしい。小学校の頃からサッカーが好きで辞める気が微塵も無かったこいつが【退部】した?俊夜はこの学校にスポーツ推薦で入校しており、いっつも「俺高校卒業したらプロになる」とか言ってたこいつが?自分の脳内を巡る黒い雲が払えず、つい言葉をこぼしてしまった。



「何でやめたんだよ」


「……なんでもいいだろ。」



自分の中の糸が プツン と切れた音がした



「良くねえよ。お前高校入ってきた時やる気に満ちてたじゃねえか!」


「うるせえなぁ!!!こっちにも事情があんだよ!いちいち首突っ込むなよ、だいたいお前だってバスケを……」



バキッ



と殴った音がした。と言うか正確には殴っていた。俊夜が過去の俺の二の舞になるのが自分の中でモヤモヤして。殴られた俊夜は拳を固く握り俺の方へ向ける。

俺は躱すことが出来なかった。

……いや、もう周りが見えていなかった。お互いの喧嘩がエスカレートしようとしたその時。




「もう止めてください、クラスの皆が困っています。」




俺たちを止めたのは先生でもない、「佐東マイナ」だった。



「……クソっ!!」



やるせない気持ちになったのだろう、それは俺も同じだが。

俊夜は50mを全力で走る様に教室、さらに校門を抜け出して行った。



「追わなくていいんですか?ヨータ」


「…………」




…………

〜河川敷〜


「はぁっ……はぁっ……」



すごく辛い。この距離を全力で走ったのはいつぶりだろうか、そう昔のことを思い出しながら前方を見るとそこには幼い頃からの親友「俊夜」がいた。

俺を見るやいなや早速あいつは俺に悪態をつく。




「……なにしに来たんだよ」


「さっきは……すまなかった!!俺のエゴでお前に勝手なこと言って、お前を傷つけてしまった!」


「…………オレも…ごめん…なんか上手く周りが見えなかった。」



「……」「……」




重々しい空気がこの河川敷一体を覆う。がそれは一瞬だけだった。



「ヨータ、俊夜さん。持ってきました。ロボットパン屋特製の【ロボットメロンパン】です。…………はい俊夜さん。……はいヨータ」



「……ありがと」「……サンキュー」



ただひたすらにパンを貪ろうとしたその時



「か、からあああああああああああい!!!!……っておいマイナぁ!メロンパンの中に何仕込んだ!?」


「なるほど【トウガラシ】は辛い、という感覚なのですね。あ、いえ少し気になったのでスタッフさんにお願いしてみました。」



このポンコツアンドロイド、後で分解してやろーか。

そう冗談で考えていると1人の男が笑った。



「ぷっ……アハハハハハハハ!」


「…なにがおかしいんだよ」


「いやっ(笑)ガキの頃思い出すなって。昔俺らさ、この河川敷でサッカーした後一緒にパン食ってたな!」


「懐かしいな、お前が買ってくるけどいつもトウガラシいれてたっけ?」


「そうそう!いやー懐かしいよな!

…………俺さ、部活辞めたの先輩達に虐められてたんだ。」


「…!!!」



やっぱり理由があったらしい。聞くところでは、入部したときから既に先輩達よりサッカーが頭一つ抜けて上手く入部してすぐレギュラー昇格、先輩達から恨みを買い虐められる。それが理由でサッカーを辞めたらしい。

虐められたときに出来た傷を見せてくれた、その傷はとても酷くあまり直視できるものではなかった。俺とマイナが驚いている矢先に俊夜は言葉を紡ぐ。




「それで俺さ……夢変える事にした。」



「!……でもお前は」


「いいんだ、もう。…でさ俺がサッカーで活躍した時、応援してくれる人が興奮するじゃん?それでさ…つまんなそうに応援してるやつも興奮して応援してくれた時、俺すごく嬉しくてさ。」


「ああ…知ってる。」


「それが癖になって、俺は人生つまんなそうにしてるやつを楽しくさせたい

って思うようになったわけよ。それでさ、俺【発明家】になろうと思った。」


「……なるほどな、それの練習がこの【部活】って訳か。」


「そゆこと。……で、いきなりだけど 部活 入るか?」


その質問に俺、いや【俺たち】は迷わず答えた。






「もちろん」「もちろんです。」









…………

〜帰り道〜


さっきまではオレンジの光が俺たちを照らした代わりに、小さな月明かりが俺たちを照らしている。

月明かりが似合うこの自称アンドロイドにふと、質問をする。



「なあマイナ、なんで俺と俊夜の行きつけのパン屋知ってたんだ?俺教えてないよな?」


「……秘密ですっ。それより今私の事【マイナ】って言いましたよね?」



「うるさい、先いくぞ」


「ヨータっ、待って!」




……そういえばなんか忘れているような。ま、いいか。







…………

〜同時刻・公園〜


私の名前は「雨宮天音あまみやあまね」高校1年生。今とても許せない人がいる。

一応果たし状を送ったのだが……





「なぁんで来ないのよぉぉぉおおお!!!」






虚しい叫び声が夜の街に響いた。

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