第77話本当にいいもの

 仮面舞踏会の招待客として紛れ込むことにしたロミオ、ベンヴォーリオ、そしてロミオの親友であるマキューシオ。一同は舞踏会に参加すると、特に揉め事も起こさず舞踏会を楽しみました。

 しかしそんな中、ロミオの瞳にある一人の少女が映ります。今まで夢中になっていたロザラインの面影がなくなってしまうほどの美しい少女に目を奪われたロミオは、近くにいた召使いに少女のことを訪ねます。すると、舞踏会に参加していたティボルトが、声からロミオが舞踏会に参加していることを察し、ものすごい剣幕で憤り、主催者であるキャピュレットに報告します。

 しかし大事な舞踏会を荒らすなと咎められ、ティボルトは怒りを内に留め、その場では大人しくしました。

 何者にも邪魔されないロミオは少女に近づくと仮面を取り素顔を見せます。途端、先ほどまで幼い面影を残していた美しい少女ジュリエットは、まるで薔薇の花が一瞬にして咲くように恋に落ちました。

 二人の視線は交差し、ロミオはジュリエットの手の甲へ接吻をします。まだ一緒にいたい。しかし、幸せな時間というものは長くは続かず、ジュリエットが乳母に呼ばれて二人は離れ離れに。乳母から先ほどの少年が仇の跡取りだと知りショックを受けるジュリエットですが、それでもこの恋が収まることはありません。こうして仇同士の両家のたった一人の跡取りである二人は、運命的な恋に落ちました。

 場面は変わり、舞踏会が終わった夜のこと。ロミオはジュリエットに会うため、こっそりとキャピュレット家の屋敷へ忍び込みました。そんな時、バルコニーから一人で嘆息を吐きながら出てくるジュリエットを見つけます。

「あの窓から溢れる光はなんだろう? 向こうは東、とすればジュリエットは太陽だ! 陽の光を浴びた灯火さながら、空に輝くあの瞳は、明るくあたりを照らし、鳥たちも昼かと思ってさえずるだろう」

「ああ! ロミオ、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの。お父様との縁を切り、その名を捨てて。それが無理なら、せめて私を愛すると誓って。そうすれば私はキャピュレットの名を捨てましょう。

 私の敵は、あなたの名前。モンタギューでなくても、あなたはあなた。

 名前がなんだというの? バラと呼ばれる花は、他の名前で呼ぼうとも甘い香りは変わらない。

 だから、ロミだって、ロミオと呼ばなくても、あの完璧な素晴らしさに変わりはしない。

 ロミオ、その名を捨てて。そんな名前は、あなたじゃない。

 名前を捨てて、私をとって!」

 突然の自分に対する愛の独白を聞いたロミオは舞い上がり、思わず物陰から姿を現します。

「とりましょう、そのお言葉通りに。

 恋人と呼んでください、それがぼくの新たな名前。これからはもうロミオではない」

「誰、夜の暗闇に紛れてこの胸の密かな想いに口を挟むのは?」

「名前では、自分が誰だかわかりません」

「あなたはロミオ? モンタギューの?」

「違います、美しい人。あなたがその名を嫌うなら」

「どうやってここにきたの? 庭の塀は高く、登りにくいのに」

「塀なんか、恋の軽い翼でひとっ飛びです。石垣に、恋の邪魔立てはできません。あなたを愛していると、あの神聖なる月にかけて誓いましょう」

「月に誓っちゃだめ。不誠実な月、毎月、その姿を変えてしまう月なんかだめ。

 あなたの愛もかわってしまうもの」

「なら何にかけて誓えばいい?」

「誓わないで。あなたの一緒なのは嬉しいけど、今晩誓いを交わすのは嬉しくない。愛しい人。もし結婚を考えてくださるのなら、明日、あなたのところへ使いを出しますから伝えてください。いつ、どこで、式を上げるか。

 そしたら、私の運命はあなたに捧げます。おやすみ、愛しの人」

 高まる興奮。二人は愛する人に愛されていたことを知り、舞い上がります。早速翌日に乳母を使いに出し、二人は教会にいるロレンス神父のもと、密かに愛を誓い夫婦となりました。





 驚愕。愕然。俺の中にはその二文字しかなかった。なんだあの嬢ちゃんは! 誰しもが褒め称えるであろう美貌。そして何より、あの抑揚ある声。演技。とても素人とは思えない。周りのことも相まって、より一層嬢ちゃんの演技が際立ってる。

 鳥肌もんだ。たかだか高校生の劇だとバカにしていた十分前の俺をぶん殴りたい気分だ。それぐらい驚いてる。

 俺はジュリエット役の嬢ちゃんが早く次の舞台に出てこないかと、心待ちにしていた。


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