第76話味のあるへたっぴ

 騒ぎを終えたモンタギュー家の夫人は、その場に居合わせなかったロミオの姿を探します。甥のベンヴォーリオに居場所を尋ねると、ベンヴォーリオは森の木かげで一人歩くロミオを見かけたと言いました。何か悩ましげな様子だとモンタギューに伝えると、モンタギューは息子の悩みを聞き出すよう、ベンヴォーリオに頼みます。そんな話をしている最中、ちょうどタイミングよくロミオが登場します。

「おはよう、ロミオ」

「……まだ朝か」

「九時を打ったばかりだ」

「ああ! 辛い時間は長いなあ」

「? 何が悲しくて、君の時間は長くなるんだい?」

「時間を短くしてくれるものがないからさ」

「恋か?」

「恋……」

 そうです。この頃のロミオは、ロザラインという一人の女性に恋をしていたのです。しかしその恋が叶わないことを知っているベンヴォーリオは、ロミオにロザラインのことを忘れるよう忠告します。しかし簡単には忘れられないロミオ。なのでベンヴォーリオは、ロミオの恋を諦めさせるためには、より美人に目を向けさせロミオの目を覚まさせてやればいいと考えつきます。なので、近々キャピュレット家で開かれる街の美人が集まる仮面舞踏会のことをロミオに話しました。

 最初は行きたくないと駄々をこねるロミオでしたが、ロザラインも参加すると聞き、しぶしぶといった様子で舞踏会への参加を決意します……。


 つまらない演劇を見せられ退屈していたんだが、存外面白くなりそうだと思ってしまった。あのロミオ役のにいちゃん、決して演技はうまくねぇが、それでも自分にできることを精一杯やってやがる。声のトーン。動き。どれも大げさで下手くそなんだが、逆にいい味を出してる。

 そこらの顔だけいいへっぽこよりも、よっぽど役者してやがる。周りが下手なせいかより一層際立ち、俺はニヤッと不敵に微笑んでしまう。しかしこの微笑みは、すぐさま驚愕に成り代わることを俺は知らなかった。


 

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