第75話下手くそな演技
昔々、ヴェロナの街にキャピュレット家とモンタギュー家という二つの名家がありました。この二つの家は代々仲が悪くお互いを仇と思い合い、事あるごとにいがみあっていました。今日も街中で出会った両家の召使いは、いがみ合い、一触即発になりそうな雰囲気を街中で醸し出していました。
「おい、あそこにいるのはモンタギューの召使いどもじゃねぇか? ちょうどいい。ガンを飛ばしてやろう。向こうから仕掛けさせて、法律を味方につけよう」
「あぁ、だがガンを飛ばすだけじゃ弱い。親指を噛んでやろう」
この時代、親指を噛むことは強い侮辱を表す行為でした。キャピュレット家の召使いに喧嘩を売られたモンタギュー家の召使いは、その挑発に乗ってしまいます。
「貴殿らは我々に対して親指を噛んでいるのか?」
「いや、貴殿らに対して指を噛んでいるのではない。指は噛んでいるが」
「喧嘩をなさりたいなら、お相手いたそう。我輩は立派な主人に仕える身。貴殿らの主人に劣らぬ」
「劣りはすれど、優りはすまい」
召使いたちはついに喧嘩を始めてしまいます。しかしちょうどその時、モンタギューの甥であり、ロミオの友人でもあるベンヴォーリオが通りかかり、召使いたちの仲裁に入ります。
「引け、馬鹿者! 剣を収めろ。何をしているのかわからんのか」
激怒し、必死に仲裁を試みるベンヴォーリオですが、火に油を注ぐように、キャピュレット夫人の甥であり、喧嘩っ早いティボルトが加勢します。喧嘩は次第に大きくなっていき、街中で乱闘騒ぎが起きてしまいました。
街中で大きな争いが起これば、街の平和を守る警官も黙っていません。騒ぎを聞きつけたエスカラス公爵という偉い人が颯爽と登場し、両家の争いを止めに入ります。
「平和を乱す不逞のやからたちめ! 次にこの街の平和を脅かすことがあれば、即刻死罪を与える」
エスカラス公爵のおかげで一旦その場は収まったものの、両家は強い怒りを抑えられないまま引き下がりました。
「ふあ〜ぁ」
軽いあくびが口をこじ開ける。退屈だ。素人の劇ほど見ていて退屈なものはない。どうしてこうも棒読みなんだ? もっとこう、下手くそでも下手くそなりにやれることはあるだろ。こんなのを後二十分以上見させられるなんて、新手の拷問だ。
職業のせいか、下手くそな劇を見ているとイライラする。俺は頭をかきむしり怒りを収めると、腕を組んで続きを見る。
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