第69話演技

 それから俺たちのクラスは、本格的に劇の練習に励みだした。演劇の時間は三十分ほどを目安にしなくてはならないため、だいぶ尺が短くなってしまう。そのためほとんどの生徒は小道具や衣装作りに回され、実際に主要人物として劇をするのは主役の二人だけだ。

 後の人間はほんのすこしだけ出番があるのみ。なので演技の練習も、北原と篠原を中心にして進められた。俺は小道具を作りながら、そんな二人の練習風景を横目で見ていた。

「ああ、ロミオ、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの? 

 モンタギューでなくてもあなたはあなた。名前がなんだと言うの? 

 バラと呼ばれる花は、他の名前で呼ぼうとも、甘い香りは変わらない。

 だから、ロミオだって、ロミオと呼ばなくても、あの完璧な素晴らしさを失いはしない。

 名前を捨てて私をとって」

「とりましょう、その言葉通りに、恋人と読んでください、それがぼくの新たな名前。

 これからはもう、ロミオではない」

「誰、夜の暗闇にまぎれて、この胸の密かな想いに口をはさむなんて?」

「名前では、自分が誰だかわかりません。 

 ぼくの名前は、聖者よ、厭わしいものです。

 あなたの敵なのだから。紙に書かれていたら、破り捨ててしまいたい」

「はいカットー! いいよ二人とも。ちゃんと読めてるじゃん」

 この演劇の台本を用意してくれた秋篠がテンション高く監督気取りで二人のセリフを止めると、褒めちぎる。今の演技。ぶっちゃけそこまで良かったのか? と俺は思ってしまった。特に篠原なんか、台本に書かれているセリフをただ読んでいるだけで、一切感情がこもってない。

 見るからにやる気もないし、こんなのでみんなの度肝を抜くとか、絶対に無理だろ。やっぱり素人には難しいのか? 

 あいつは顔だけでなんとかなると思ってる節があるけど、やっぱ演劇というのは容姿だけでどうこうなるものではないんじゃないか? 

 俺は幸先がとても不安になりつつも、口出しはせず、自分の作業をやりながら二人の演技の練習を見ていた。

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