第67話相対的

「お前の劇で注目を集めるって、そもそも劇なんて出来るのか?」

 篠原のぶっ飛んだ話を聞いて思ったのだが、こいつはそもそも演技が出来るのか?

 一緒に演技をしてみんなの評価を上げるだの、私の演技でみんなの注目を集めるだの、果たしてコイツに人の心を動かすほどの演技が出来るのか、甚だ疑問だ。

 俺の疑問を耳にした篠原は、フンと偉そうに腕を組み、演劇について語り始めた。

「楽勝よ。劇なんてものわね、大げさなリアクションでそれっぽいことをしてればなんとかなるもんよ」

 完全に劇を舐め腐っている篠原を見て、ものすごく心配になった。どうしてここまで慢心できるのか、逆に尊敬する。さすがの俺も、これには物申ざる終えない。

「お前舐めすぎだろ! いくらなんでもそんな認識じゃ、人の心を動かすことなんでできるわけないだろ」

 俺が大きな声で言うと。

「余裕よ。ねえ新藤くん、どうして私が可愛いかわかる?」

 篠原は笑みを見せつけると、話題を変えてきた。いきなり変な問いかけをされた俺は、特に何も考えず適当に答える。

「そりゃ、お前の顔が整ってるからじゃないのか?」

 正解を回答したつもりなんだが、篠原はニヤリと笑いながら「ハズレ」と言ってくる。

「正解は、周りに比べて私が可愛いからよ」

「?」

 篠原の答えを聞いてもいまいちピンとこない俺に対して、篠原は呆れ気味に補足してくれる。

「相対的にってことよ。もし全世界の人間が女優みたいにものすごく整った顔立ちをしていたら、私は可愛くないでしょ? 

 つまり! 世の中には人より劣った人間がいるから秀でた人間がいるのよ。天才と呼ばれる人間も、他の人間より優れていたから天才なのであって、周りが天才ならそれは天才ではないのよ」

 長々と熱弁する篠原だが、今の話と劇になんの関係性があるのか掴めない。俺が片眉を上げて察せていない表情を作ると、篠原は何が言いたかったのか話し始める。

「まあつまり、うちのクラスから選ばれた北原くんも、多分ゴミみたいな演技しかできないじゃない?」

「ゴミって……」

「だからね、そこを比較してもらうわ。北原くんには悪いけど、今回の劇で彼よりも数段すごい演技をすれば、ものすごく良く見えると思わない?」

 ものすごく当たり前のことを言ってくる篠原だが、それだと最初の疑問が払拭できない。

「確かにあいつよりいい演技をすればできるかもしれないけど、そもそもお前にあいつを霞ませるほどの演技が出来るのか?」

 最初の質問に帰ってくると、篠原は自信満々に。

「出来る出来ないじゃなくて、やるのよ」

 ドヤ顔で言い切った。

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