第66話バカで天才
「別に嫌いじゃないわよ。ただ、関わろうとしないだけで……」
「……? それは嫌いって意味じゃないのか?」
篠原の言葉に口を挟むと、篠原は首を傾げる。
「別にそうとは限らないでしょ。関係を築かないから嫌いだなんて、酷く安直な考え方ね」
いらん口を挟んだせいで、篠原に呆れられる。でも、じゃあなんでこいつはクラスの人間と交友関係を築かないんだ? 俺は思った疑問を余すことなく篠原に質問する。すると篠原は、さらに暗い雰囲気を醸し出し、喋り始める。
「新藤くんならわかると思うけど、私って結構キツイ性格してるでしょ」
「まあ、そうだな」
否定せず肯定すると、篠原はフッと軽くはにかみ続ける。
「だからね、中学の時なんかはよく同級生と意見が揉めたりしたわ。気に入らないこととか間違ってるって思ったことには、ハッキリと意見してしまう性分だから」
それから篠原は肩の力を抜くと、俺のことなど忘れて昔を思い返すように喋り出す。
「女子っていうのはかなり打算的な生き物だからね。最初は私の容姿を見て、結構な人間が集まってくれるのよ。でも私の性格が露呈すれば、自ずと人は離れていく。でも、人が離れるだけならまだいいわ。一番辛いのは、悪意を向けられることね。他人からの悪口や嫌がらせで、何度嫌気が差したかわからないわ。だからね、今のあなたの気持ちが痛いほどよくわかるのよ」
淡々と話してくれた篠原。だが、俺はそんな彼女に意見する。
「そうだったのか……。でも、だったら取り繕えばいいだろ。大抵の人間ってのは、自分の素を隠して人との関係を築いていいくもんだ。それは別に難しいことじゃないし、篠原だってそうすれば……」
「 ––––––––無理よ」
食い気味に否定され、少々驚く。
「確かに自分の性格を抑えて他人に合わせるのは難しくないと思う。でも、そうまでして人と付き合う意味ってなに?」
突然の疑問に、俺は即座に返すことができなかった。無理して人付き合いをする意味。果たしてそんなものに意味なんてあるのか。俺にはわからない。何も答えられず黙っていると、篠原は自問自答する。
「私は意味なんてないと思う。欺瞞に満ち溢れた人間関係なんて、とても退屈でつまらないと思うから。だから新藤くん。あなたとしゃべっている時、私はとても楽しかったわ。でも、あなたは今、私のせいでこんな状況に陥っている。全ては私の責任よ。本当にごめんなさい」
太ももに手をついていきなり頭を下げてきた篠原の行動に、俺は慌てて頭を上げさせる。
「い、いきなりなんだよ。お前らしくもない……」
俺はおちゃらけた様子で笑ってみせるが、篠原は申し訳なさそうにして。
「最近、あなたが落ち込んでいるじゃない。そのせいで、私の軽口にも乗ってくれないし。だから今回の文化祭の劇でいい演技ができてみんなからの評価が元に戻れば、あなたの機嫌も戻ると思ったのよ。まあ結果として、こんな形になってしまったけど……」
なるほど。やっぱり篠原は俺のために……。なんだか逆にこっちが申し訳なくなってくる。でも今更俺が主演をやらせてくれとは言いづらいし……。
二人して長い沈黙を作り出す。窓から聞こえてくる部活動の喧騒のみが室内に響き渡り、妙に気まずい雰囲気になる。結局この文化祭で俺が何かアクションを起こすことはできないだろう。
昔っから人前に出るのが得意なわけではないし、ましてやこんな状態だし。言い訳ばかり頭に浮かんでしまい、自分が嫌になる。それでも、出来ないものは出来ない。
何も喋らずに二人して俯いていると、篠原はおもむろに口を開いた。
「新藤くん、人の気持ちなんて簡単に変えられるって私言ったじゃない?」
「あ、あぁ……?」
疑問符をつけて生返事をすると、篠原は俺の目をまっすぐ見つめて。
「だから考えたのよ。いま新藤くんに集まっている悪い注目を私に集めれば、みんなの意識を反らせるんじゃないかってね。今回の文化祭でいい演技をしてみんなが私に注視すれば、新藤くんのことなんて忘れると思わない?」
唐突にバカなのか天才なのかわからないことを言ってきた。
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