第65話悪人

 長かったような短かったような六時間目が終わると、帰りのホームルームを終えて部室へ向かおうとする。そこで珍しく篠原から手招きをされ、俺はなるべく目につかないよう篠原と合流する。

「なんだよ……」

 訝しむ様子で問いかけると、篠原は素っ気なく「別になんでもいいじゃない」と言い放ち、廊下へ出て行く。

 篠原の後を追いかけるように俺も廊下へ出ていくと、篠原は困り顔で不満を漏らし始める。

「どうして私がこんな役目を……」

 眉間に手を当ててため息を漏らす篠原を、俺はまあまあと宥める。

「お前が一番クラスの中で顔が良かったから選ばれたんだし、良かったじゃねえか」

 まるで他人事のようにいうと、篠原は俺のことをギロリと睨みつけてくる。

「あなたね……。だいたい、私だってあなたが出るなら不満を持つことなんてなかったわよ。どうしてロミオ役に挙手しなかったの?」

 きつく問い詰められ、俺は苦笑いを浮かべる。

「そりゃ、俺なんかが挙げれないだろ」

 自虐気味に返すと、篠原は怒るでもなくただ同情するように。

「まあ、そうね……」

 とだけ呟く。その後は特に話すこともなく、部室に到着するといつもの定位置に座る。結局俺は劇に出ないで、なぜだか篠原が出演することになってしまった。なんだか当初とは全く違う展開になってしまい、俺はかなり動揺している。

 でも俺以上に篠原の方が動揺しているはず。俺は違和感なく自然な感じで、劇について篠原に聞いてみる。

「なぁ、本当に劇に出るのか? 半ば無理矢理な感じだったし、まだ拒否できると思うけど」

 心配した感じで聞いてみるが、篠原はむしろやってやるといった感じでやる気に満ち溢れていた。

「拒否なんてしないわよ。さっき私が男子どもに推されてる時の女子たちの顔を見た? 最高に引きつってたわ。あんな劣等感溢れる表情をされたら、流石にやらざる終えないわよね」

 いきなりのクズ発言を聞いて、やっぱり篠原は悪いやつなんだなと再確認する。てかこいつって女子と仲悪いのか? 良くはないと言い切れるけど、悪いかと聞かれたらわからない。そもそもこいつがクラスの女子と話しているところを見たことがない。

 今のこいつは何故だか俺に暴言を吐いてこないし、いい機会だから聞いてみるか。

 そんなわけで、俺は篠原に女子との交友について質問してみた。すると篠原は、複雑な表情で自分のことを語り始めた。

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