第64話面白半分
翌る日の六時間目。昨日と同じように俺たちのクラスは文化祭について話し合いをしている。今日の議題として、演劇の内容と、誰が出演するかについてだ。まず何の劇をするかだが、既存の作品をそのまま演じるか、はたまた自分たちでオリジナルの作品を一から作り出すかで話し合いをした。
やれ既存の作品はみんなやっていてつまらないだの、オリジナル作品を書ける人はいないだの、色々と話し合いを重ねた結果、既存の作品を演じることになった。
まあ妥当と言えば妥当。劇のシナリオを書きたいなんて奇特な人間が、俺のクラスにはいなかっただけだ。だから俺たちのクラスが既存の作品の劇を演じるのは、妥当であり順当なことだ。
既存作品を演じることが決まった次は、何の作品を演じるかの話し合いに移った。
有名どころで言えば、浦島太郎や桃太郎などの日本昔ばなしなどが思いつくが、それを高校生がやるのはどうなんだと思う。子供向けの童話を高校生が真面目にやることに抵抗感を覚える俺だが、多分俺は劇に出ないのでどうでもいいかと他人事のように思い、頬杖をつきながら多数決が取られるまで意見を出さずに待つ。
ぬぼーっと特に何も考えず黒板に書かれていく童話たちを見ていると、やっと多数決が取られる。
候補に選ばれたのは、「美女と野獣」「ロミオとジュリエット」「白雪姫」など、有名どころの童話が挙がっていた。正直どれでもいい。だからなんとなく文字数が多いという理由だけで「ロミオとジュリエット」に手を挙げた。
前回と同様にみんなまばらに手を挙げたので、票数がものすごく偏ることはなく、クラス委員が正確に数えるまでどれが選ばれるのかわからない状態だ。クラス委員が指で一人ずつ数え終えると、黒板にそれぞれの票数を書き始めた。
その結果一番多く票が入れられたのは「ロミオとジュリエット」だった。これに関しては別に意外でもなんでもない。多分みんなの気分がなんとなくこれだっただけで、日が違えば別のものが選ばれていたに違いない。
そんなわけで「ロミオとジュリエット」が選ばれたわけだが、むしろここからが本題だ。次に行われた議題は、誰が劇を演じるかだ。
時間的に細かい役まで割り振るのは無理なので、今回はメインのロミオとジュリエット二人を誰が演じるか話し合う。話し合いと言っても、〇〇がやれよとか、〇〇ちゃんがやったらいいじゃーんとか、そんな感じの会話があちこちで繰り広げられているだけだ。
男子の方はみんな本気でめんどくさいのか目立つのが嫌なのか、結構ガチで押し付けあっていて、女子の方はと言えば、満更でもなさそうな感じで「うちには無理だって〜」みたいなやりとりをしている。
どうでもいいから早く決まんねーかなーと傍観を決め込み数分待っていると、男子の方では早くも結論が出た。顔もそこそこ整っていて、女子から人気もある北原という男子生徒が、主に女子からの支持でロミオ役に抜擢された。
これはまあ予想通りの結果だ。最初っからこいつ一択だったと言っても過言ではない。問題はここからだ。
女子の方はなんだか時間がかかっているようで、いまだに誰がやるのか決まっていない。修学旅行の班決めでもなんでも、どうして女子の話合いというのはこうも長くなるのだろうとどうでもいいことに疑問を抱きつつ、なんとなく篠原の方に目を向けてみる。
正直容姿だけで選ぶなら、篠原がぶっちぎりだと個人的に思う。でも、それと劇を演じることは別だ。あいつはクラスで人気者なわけでもないし、そもそもあいつ自身、俺が出ないのなら出る理由がないはずだしな……。
興味なさそうに机の木目を見ている篠原。まるで自分は無関係とでも言いたいげなその風貌に、俺は驚かされる。でも、一番驚かされたのは篠原だろう。
なぜならこの数秒後に、ある一人の男子生徒がこう言ったからだ。
「普通に篠原が適任じゃね? 顔的に」
この一言で、教室はほんの一瞬だけ沈黙に包まれる。が、しかしすぐ他の男子も乗っかるように篠原をおだてる。
「確かに篠原でいいんじゃね。顔的に」
「確かに。顔的に篠原だよな」
「だな。顔的にな」
なぜだか男子は顔的というよくわからんワードにツボったのか、笑いながら篠原をおだて始めた。こんなことをしたら篠原は激怒するんじゃないかと内心焦ったりしたのだが、俺の予想に反し、篠原は「え、えっと……」と動揺している。
篠原もあんな風に動揺することがあるんだなと思い、ちょっとだけおかしく思えた。結局ほとんどの男子は面白半分で篠原を推薦し、篠原も断りづらい空気の中、しぶしぶジュリエット役を引き受けこの話は終わりを迎えた。
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