第61話文化祭
悪夢のような時間が終わると、俺は昼休みが終わるギリギリの時間に教室へ戻る。
聞き慣れたチャイムが校内に響き渡ると、生徒は一斉に着席をする。俺も生徒の波に乗りながら席へ座ると、数学の教師が教室へ入ってきた。
いつも通りだ。授業は恙無く終わりを迎え、数学の教師は自分の職務を全うすると、速やかに教室を出て行く。俺はと言うと、周囲の視線が気になって何だか集中できなかった。
多分俺が自意識過剰なだけだと思うのだが、人から見られてる気がしてならない。
以前まではこんなことなかったのに……。どうしよう、このままじゃダメだ。学生生活は残り一年半ほどあるのに、俺は一生このままなのか? このまま女子からは嫌われ、男子からはいじられ続けるのか。
考えれば考えるほどネガティブになっていく。この世全ての人間が俺の敵なのではないかと考えてしまうほどに……。一人で携帯をいじりながら六時間目が始まるのを待っていると、何故だか六時間目の社会担当ではない担任の教師が教室に入ってきた。
俺は担任が教室へ入ってきたことに疑問を感じるが、周りの同級生はなぜだかはしゃいでいる。
どうしてだ?
今の状況が飲み込めていない俺は、携帯を触りながら周囲の声に耳をすませてみる。すると、所々から”文化祭”というワードが聞こえてきた。
そこで、そういえば夏休み前に文化祭とかあったなぁと思い出す。今朝も担任が文化祭について話していた気がするので、多分今から文化祭の出し物等について話し合うのだろう。
そこでまた、俺は少しだけ憂鬱になる。去年の文化祭はクラスで屋台を開いた。売り上げはそこそこだったけど、クラス一丸となって取り組んでいた気がする。でも今年は……。
周りを見ると、思わずため息が漏れでそうになる。完全に今の俺は浮いている。多分あの篠原よりもだ。そんな俺が周囲と協調して何かを成すなんて、できる気がしない。
最悪の場合、当日は一人で便所にこもってる可能性もあり得る。色々と嫌な考えが脳裏をよぎりまくり、胸がキュッとする。
俺は少しでも気を紛らわせるよう、うつ伏せになると授業が始まるまで視界を遮断した。授業が始まると思った通り担任が文化祭の話を始めるので、俺は顔を上げて話を聞く姿勢に入る。
担任は色々と話していたが、要約すると「今日は文化祭の出し物を決めろ」とのことらしい。
文化祭の出し物で思いつくものは、定番でいえばお化け屋敷とか喫茶店とかか?
色々と頭の中で考えていると、やはりそれらのものが挙げられた。
出し物の決め方として、いくつか案を出し、その中から多数決を取ると言うもの。だから最初に、生徒がいくつか面白そうなものを挙げていく。出された案としては、喫茶店、屋台、劇、その他多くの案が出された。
この中からさらに話し合いを進め、最終的に残ったのは喫茶店と劇だった。正直ものすごく意外だ。喫茶店はなんとなくわかるが、劇なんて絶対選ばれないと思った。
だって普通に考えて、素人の高校生が劇をやるとか恥ずかしくないか。少なくとも俺は恥ずかしいと思う。
だから劇が候補に残ったことが、すごく意外だった。でもよくよく考えてみれば、劇をするのは主役の生徒だけで、他の生徒はほんのちょっとしか出番がないはずだ。
なんなら大多数の生徒は衣装作りやセット作りなどの裏方に回されるだろう。そう考えたら、喫茶店よりもずっと楽なのではないか?
もしかしたら俺以外の奴らもこう考えているから、劇なんてものが候補に残ったのでは? なんにしても、間違いなく劇が選ばれれば俺は裏方だ。なら、どちらに票を入れるかは明白。
多数決は手を上げるのだが、俺は劇の方へ手を挙げた。パッと見た感じ、人数は半々といったところ。前に立っているクラス委員の生徒が一人ずつ丁寧に数を数える。すると、喫茶店16に対して、劇は19という結果になった。
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