第57話二つの覚悟

 唐突にそんなことを言われた米太郎くんは、赤面しながら。

「あ、明日ですか? そんな急には無理ですよ……」

 弱気な発言をする。でも、いつもまでもそんなんだから進展しないのだ。私が彼にしてあげられることは、背中を押してあげることだけ。だから遠慮せず、私は彼を問い詰める。

「急じゃなかったらできるの? 時間が経てば覚悟は決まるの?」

「それは……」

「無理よね。最初っから出来るなら、中学から今までなんの進展もしないわけないもの」

 ズバッと言い切ると、米太郎くんは露骨に落ち込む。でも、落ち込ませてでも言わないと、彼は一生やらない気がする。だから私は、彼の尻を叩くどころか蹴り上げる勢いでしゃべり続ける。

「いいこと? 人の心なんてね、一時間あれば簡単に変えられるわ。フィクションみたく時間をかける必要なんてどこにもないのよ。だから米太郎くん、覚悟を決めなさい」

 私が言い切ると、米太郎くんは声量を小さくして。

「覚悟ですか……?」

 問い返してくる。

「そうよ。あなたは最初、私たちに言ったわよね。好かれてるのに他の人を好きになるのが申し訳ないって。つまり、あなたが前に進めない原因は、あなたのことを好いてくれる彼女たちにあるってことよね」

「それは……」

 否定しない。きっと思うところがあるのだろう。だからここで、覚悟を決めてもらう。

「今から、あの二人をあなたの言葉で振りなさい。そうすればデートに誘う覚悟も決まるでしょ」

 いきなり言うが、米太郎くんは複雑そうな面持ちだ。それでも言い返す言葉が見つからないのか、俯いたまま何も言わない。なので私は、一つ米太郎くんに質問してみることにした。

「あなたはあの二人に愛されてるようだけど、告白されたらどうするの?」

 聞いてみると、米太郎くんは難しい顔をしながらも。

「わかりません。でも、彼女たちのことは仲のいい友達だと思ってるので……」

「それはもう付き合えないと言っているようなものじゃない? これ以上ズルズル引き伸ばしても、誰も幸せにはならないと思うのだけど」

 空気は重い。それでも、この依頼は米太郎くんの気持ちが動かないと始まらない。

 彼が周りの女子たちとの交流を続けたままじゃ、一生変わらない。前に進めない。わざわざ恋愛部へ頼りに来たのも、背中を押してもらうためなんじゃないかと私は考える。

 しばらく沈黙が続くと、米太郎くんはスゥーと息を吸うと。

「わかりました。今日彼女たちを呼び出して、僕に好きな人がいることを伝えようと思います。それから西井さん。あ、僕の好きな人の名前なんですけど、彼女を明日デートに誘おうと思います」

 固く胸に決心したのか、彼の顔には先ほどの不安な表情は一切なかった。

 

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