第54話芝居
「お呼びではない人たちがいるみたいだけど?」
対面に座ってきた米太郎くんの方を見ながら言うと、彼は申し訳なさそうに苦笑いをしながら。
「す、すいません……」
謝ってくる。別に彼を責めたわけではなく、隣にいる女たちに嫌みを言ったつもりだったのだが……。
「はぁ……」
面倒ごとが増えて、思わずため息が漏れ出る。今は彼女たちに構ってる暇はない。
一刻も早くこの部室から出て行って欲しい。だけど彼女たちは一向にここを立ち退くつもりなんてないらしく、私のことを睨み付けると問い詰めるように質問を投げかけてくる。
「なぁ篠原美佳子。あんた結局、コメとどう言う関係なんだよ!」
やっぱりそのことか。昼間、不用意に挑発したのは間違いだったかしら。でも先に彼女の方から喧嘩を仕掛けてきたのだから、やっぱり私は悪くない。まあそんなことはどうでもいい。
さて、私はここで彼女たちになんて返したら正解なんだろう。思考を加速させ、最適解を導き出す。
まず初めに浮かんだ返答として、米太郎くんがここにきている理由を説明する。しかし彼女たちに真実を説明したら、余計に面倒なことになりそうなのでこれは却下。
嘘をつくにしても、ただつくだけじゃだめ。彼女たちが納得してこの場を去ってくれるいい嘘が……。瞬間、私の脳に一つの提案がほとばしる、やっぱり私は天才だ。
私は申し訳なさそうに。
「そうね……」
と呟きつつ、携帯のメモ帳にある事を書く。書き終えるとわざとらしく携帯を米太郎くんの足元に落とす。
「あ、ごめんなさい。拾ってもらえるかしら」
米太郎くんの目を見ながら言うと、米太郎くんはなにも言わずに私の携帯を拾い上げ、そして画面を除く。それから画面に書かれてる文字を隠すようにして、私に携帯を返してくれる。
「ありがとう。それで彼との関係よね……」
「彼って……」
いちいち敏感に反応する金髪女とピンク女。本当に面倒くさい。でも私は、そんな彼女たちの同情を買うように、落ち込んだ雰囲気を纏わせると。
「実はね、私は米太郎くんのことが好きなのよ」
突然のカミングアウトに、みな驚きを隠せずにいた。特に米太郎くんの両脇に座ってる女子二人は、これでもかと言うほど動揺している。
「そそそそうなんですね。ま、まあ、米太郎くんはとても魅力的な人ですからね。で、で、そのあとは?」
ピンク女が焦りを隠せず追求してくるので、私は悲壮感を前面に押し出す。
「昨日彼に告白をしたのよ。でも、振られてしまったわ……」
衝撃の事実(嘘)を伝えると、ピンク女はなんとも言えない表情を作り、金髪女はちょっとだけ嬉しそうにしていた。ほんとムカつくわね。まあいい、この調子で続けよう。
「でね、今日の昼もう一度チャンスをくれないかって米太郎くんの元へ行ったの。『もう一回考え直して』ってね。だから米太郎くん」
私は真剣な眼差しで米太郎くんの目を見つめると。
「私と付き合ってもらえないかしら」
告白をする。最初は驚いていた米太郎くんだが、私の真意に気づいたのだろう。私の芝居に合わせるように申し訳なさそうな顔を作ると。
「ごめんなさい篠原先輩。やっぱり付き合えないです」
私のことを振ってくれる。だから私は露骨に落ち込んで見せる。
「そう……。やっぱりダメなのね。色々と迷惑をかけてごめんなさい。もう行っていいわよ……」
私が帰るよう促すと、米太郎くんたちはなにも言わずに部室を出て行った。しかし私の隣では、いまだに状況を飲み込めてない新藤くんが一人でテンパっていた。
「お、おい。お前、今のマジかよ」
相変わらず察しの悪い男だ。少し考えればそんなことあるわけなにのに。私は呆れつつも、彼に事情を説明する。
「あなたはバカなの? そんなわけないじゃない。全部彼女たちを帰らせるための嘘よ」
「嘘って言っても、米太郎まで帰しちゃ意味ないんじゃ……」
「そうね。でも大丈夫よ。多分すぐ戻ってくるから」
「……?」
意味のわかってなさそうな新藤くんに「待ってればわかるわよ」とだけ返す。そして私の言った通り、十分ほどしてから米太郎くんが戻ってきた。
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