第51話悪を駆逐

 大きなため息を漏らしつつ、私は腕を組んで無視できない金髪女の相手をする。

「何か用? 私は今、米太郎くんに用があるからあなたはお呼びじゃないのだけれど」

「やっぱりコメのことを……。なんなのあんた? ポッと出がしゃしゃり出ないでよ!」

 なぜだか激昂する金髪女。焦燥感を前面に出しているこの女に、私は冷静な対応をする。

「別にしゃしゃり出てるつもりはないのだけど……。というかあなた、なんで毎度毎度私に噛み付いてくるの? もしかして彼を取られるのが怖いの?」

 煽り気味に言ってやると、金髪女は動揺を隠すように早口でまくしたててくる。

「な、なにそれ意味わかんないんだけど。コメがあんたなんかを選ぶわけないじゃん。なに勘違いしてんの?」

「そうかしら? でも昨日、彼は一人で私に会いに来てくれたわよ」

「は、はぁ?」

 米太郎くんの方を一瞥しながら微笑を浮かべると、金髪女は新藤くんと話している米太郎くんに近づいて問いただす。

「おいコメ! 昨日の放課後一人でこいつに会いに行ったって本当か!?」

「え? ああ、本当だけど……。でもそれは……」

「 ––––––ほら、本当でしょ。あなたはもう負けてるの。ポッと出のいきなり出て来た人間に」

 続きを話そうとする米太郎くんの言葉を遮り金髪女をまたも煽ると、彼女は涙目で。

「コ、コメのバカー!」

 泣き叫びながらどこかに立ち去った。ふぅ……。やはり悪を駆逐するのは気分がいい。私が勝ち誇った笑みで胸を張っていると、周りの視線が強くなっていることに気がつく。

 さすがにあんな会話を廊下でしていたら、注目も集まるわよね……。ごほんとわざとらしい咳払いをして、米太郎くんの方へ向き直る。

「まあ色々あったけど、結局私たちはあなたの好きな相手を聞くためにここへ来たのよ」

 私たちが来た理由を説明すると、米太郎くんは露骨に頬を赤らめる。

「そうなんですか……。えっと、ここじゃアレなんで、ちょっと離れませんか?」

 ここで言うのは恥ずかしいと言うことらしい。どれだけ恥ずかしがり屋なんだ、この子は……。

「この喧騒なのだし、聞かれはしないわよ。ほら、ジェスチャーだけでもいいから」

 私が無理やり聞き出すと、米太郎くんは頬を赤らめながら。

「う……。わかりましたよ。僕の好きな人はですね、あそこに座ってる女子で……」

 米太郎くんは、件の女子生徒を力なく指差す。米太郎くんが指差した先にいた女子生徒は、複数の女子と一緒に弁当を食べており、見た目は派手でも地味でもなく、特徴といえばサイドに結ばれたポニーテールぐらいだ。 

 顔も悪くはないのだけど、とても可愛いというわけではなく、先ほどの金髪女や一昨日のピンク女の方が顔は可愛い。

 でも見てくれなんかで人の良し悪しは測れないことを、私は痛いほど知っている。

 現に私の目の前にいるこの後輩も、見てくれがいいわけではないのにモテている。

 好きになった本人にしかわからない魅力というものもあるのだろう。なんだかこういうのは如何にも青春らしいなと柄にもないことを思い、ちょっと恥ずかしくなる。

 私は数秒その女子生徒を見つめると。

「米太郎くん。ちょっと、あそこにいる女子生徒を呼んできてもらえるかしら」

 そう頼むと、米太郎くんは思いっきり動揺して私のお願いを拒む。

「ぼ、僕がですか? 無理ですよ。今までもちゃんと話したこともほとんどないのに」

 絶対に無理だと言わんばかりの様子だが、あんだけ美少女に好かれておいて何故こんなにも弱気なのかと不思議に思う。あそこまで美女にモテているのなら、ものすごく傲慢な性格になってもおかしくないのにと、米太郎くんに感心しつつ、私は彼の背中を押す。

「大丈夫よ。あなたがいつも話しかけられないのはきっと、狙ってるとか思われないかと心配しているからでしょ?」

 わかった風なことを言うと、図星なのか目を逸らす。そんな彼の背中をトンと押すと。

「大丈夫よ。これは私に命じられて仕方なくって大義名分があるのだから、なにも恥ずかしがることはないの」

 私が勇気付けるように言うと、米太郎くんは「わかりました……」と決意を込めた表情を作り、女子生徒へ話しかけに行った。

 彼が無事話しかけられるのを廊下から見守っていると、やっぱり影の薄い新藤くんが不満そうな声を漏らしてきた。

「なんかお前、俺以外の奴に対して優しくねえか?」

「そう? 別にそんなことあると思うけど」

「いやあんのかよ。なんなのお前? 俺を貶すことがそんなに楽しいか?」

「えぇ、この上ないほど楽しいわよ。あなたを貶すことが今の私の生きがいと言っても過言じゃないほどに」

「なにその陰湿な生きがい。お前、絶対ろくな死に方しねーぞ」

「別に死んだら同じなのだから、どうやって死のうが一緒じゃない」

「この屁理屈王女め」

「私のことを王女だと思ってるなんて、あなた、見る目があるわね」

「……もういいわ」

 またしても勝利を収めた私の元へ、ちょうどよく件の女子生徒が話しかけてきた。

「あの、私に何か用ですか?」

 チラッと見えた八重歯に強気な態度。もしかして米太郎くんはMなのかなと思ったりするけど、後輩の性癖などどうでもいい。

「少しだけ時間を貰えるかしら。悪いようにはしないから」

「はぁ……。まだお弁当を食べてる途中なんで、できれば手短にお願いします」

 先輩の誘いを無下にできず仕方なくといった様子ね。私たち三人は、廊下側の隅っこにある、あまり人が来ない場所まで移動した。

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