第50話衆目

 四時間目の授業が終わり、校内には昼休憩を知らせるチャイムが鳴り響く。ザワザワと談笑を始めるクラスメイトたちは、鞄から財布や弁当箱を取り出し、それぞれの時間を過ごし始める。

 私もこの時間になったら弁当箱を片手に部室へ赴くのだが、今日だけは違う。昨日の米太郎くんの依頼をこなすために、私たちは昼休みの時間を使わなくてはいけない。

 私は真ん中らへんの席にいる新藤くんへアイコンタクトを送ると、廊下で携帯をいじりながら待つことにする。

 数秒ほどして新藤くんがゆっくりと歩いて来たので、そのまま下の階にある一年生の教室へと向かうが、あることに気がつく。

「そういえば米太郎くんの好きな相手のことも、ましてや米太郎くんのクラスさえも聞いていなかったわね」

 下の階に降りる階段で突然思い出したかのようにして言うと、新藤くんは適当に。

「しらみ潰しで見てけばいいだろ」

 と答える。まあ元よりそのつもりだ。でも彼には事前に教室へ向かうことを知らせていなかったから、食堂とかに行っていたらどうしようかと少しだけ心配になる。

 でも結果としてその考えは杞憂に終わった。一年生の教室を適当に見て回ったら、案外直ぐに米太郎くんは見つかった。クラスは一年F組。その教室の中で、彼は男友達と二人で弁当を食べていた。

 早速声をかけようと彼の教室の前に立つと、何度か慣れたざわめき声と視線を浴びることになる。

「おい、誰だあれ?」

「すげー美人」

 初めてじゃないこの視線と声が、私はあまり好きじゃない。こう行った衆目の集め方は好きじゃない。早いところ立ち去りたいと思い、米太郎くんに軽く手招きをする。すると一緒に食べていた男子生徒がいきなり。

「おい! 誰だよあの美女!? なんでいつもお前ばっかり美人に好かれるんだよ!」

 と、ラブコメの主人公の親友みたいなことを叫び始めた。私は別に彼のことを好いているわけじゃないのだけど、いちいち撤回するのもめんどくさい。他人にどう思われようとも、今更何も感じない。

 米太郎くんは何か言いたげにするが、私が強く視線を送ると親友ポジションに「ごめん」と謝りながら、駆け足で私たちの方へ走って来た。

「えーと、どうしたんですか? 依頼の話なら、放課後にでもするのかと……」

 当然の疑問をぶつけてくる米太郎くん。確かに今日の放課後でもいいのだけど、依頼を解決するのが早いに越したことはない。

 どうせ時間を掛けようが掛けまいが一緒のことだ。彼に両想いだったと伝えれば依頼は解決したも同然なのだから。だからいちいち時間をかけてはいられない。

 私は彼の質問に応じず、自分が来た理由を話そうとするが、しかしそのタイミングで一際大きな声が廊下に鳴り響く。

「あ ––––––––––––––––––– ! 篠原美佳子! なんであんたがコメと話てんのよ。やっぱりあんた、コメのこと狙ってんでしょ!」

 いきなり修羅場になりそうなことを堂々と発して来た女を見て、私が気が重くなる。

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