第48話主人交代!?

「あの、また来てもいいですか?」

「もちろん。あなたの依頼が解決するまで何度でも来てちょうだい」

「あ、ありがとうございます。それじゃあまた明日」

 安堵のような柔和な笑みを浮かべて部室を出て行く米太郎くん。彼が立ち退いた部屋の中、私たちは彼について話す。

「すごい奴だったな……」

「ええ、確かにすごい子だったわね」

 私たちは各々、感嘆にも似た感情を抱いて彼の出て行った後の扉を見つめる。

 あそこまでモテる人間というのも珍しいものだ。俳優や女優、メディアに顔を露出する人気者ならいざ知らず、彼は多分一般的な男子高校生だろうに。にも関わらず、多くの女性を魅了してしまうなんて……。

 多分、そういう星の元に生まれてきたのだろう。この目の前で驚きの表情を作っているなんとも平凡な男にも、その魅力の一部でも分けてあげてほしい。私はいつもどおり目の前の男をおちょくるように、軽口を叩く。

「あなたよりもよっぽど主人公らしい人間がいたわね。その席、代わってあげたら?」

 微笑を携え小馬鹿にするように言うと、新藤くんは怒るでもなくいつものトーンで。

「やだね。お前が変われよ」

 全く私の想像していないツッコミをしてきた。この男は何を言っているのだろう。

「馬鹿ね。私が代わったらメインヒロインがいなくなるじゃない。男二人のむさい空間が出来上がるだけ。……もしかしてそういう趣味が?」

「ちげーよ! どこからどう見ても俺は好青年だろ」

「あら? 好青年がそういう趣味の持ち主じゃないとあなたは言い切れるの?」

「相変わらず屁理屈ばっかだな……」

 いつも通りのやりとりに、くすくすと笑いをこぼす。

「まあとにかく、この作品は来週から『やれやれ全く、俺は全く何もしてないのに勝手に女が寄ってくるからとりあえず侍らせてみた』略して『おれはべ』が始まるから、あなたは用済みよ」

「何その頭悪そうなタイトル。絶対人気でないだろ」

「確かに」

 私は又しても笑う。やっぱり彼と話すと居心地がいいなと思ったりして、でもそれを知られたらなんだか負けた気がするのでなんとか悟られないようにしつつ、本題へと移る。

「にしても、今回の依頼は今までの中で一番簡単ね。むしろ、私たちができることなんてほとんどないんじゃないのかしら?」

 余裕をかます私の発言に、新藤くんは疑問を呈してくる。

「そうか? 今までのとあまり内容は変わらない気がするけど……」

 私の言っていることに疑問を感じている新藤くんに対して、フンと鼻で笑うと私がどうして簡単と思っているかの説明を始める。

「えぇ。確かに内容は同じかもしれない。でも彼は今までの依頼人とは決定的に違う点が一つある。それは、ものすごくモテるという点よ! どうせ米太郎くんの好きな相手も、米太郎くんのことが好きに決まってるわ」

「ものすごい決めつけだ……。だいたい、あいつがすごいモテてるのだって嘘かもしれないだろ。ウソじゃなくても、あいつの勘違いだって可能性も……」

「いいや、彼は絶対にモテてるわ」

 新藤くんの発言を食い気味に否定する。

「彼の両隣にいた女。そして彼のはっきりしない性格やヘタレな性格。私は確信したわ。この人は主人公なんだって」

 いきなり意味不明なことを言い出した私に訝しむ眼差しを向けてくる新藤くん。

「えっと……お前、いきなり何言ってんの?」

 本気で困惑しているようだ。確かに私も何言ってんだろうと思わなくはないが、彼にマジレスされると蹴り飛ばしたくなる。

 でも流石に暴力をするわけにはいかないので、私は自分の言いたいことを頭の悪い彼でも理解できるように説明する。

「つまり何が言いたいかって言うとね、彼はモテそうだと言うことよ。ほら、たまにいるじゃない。あまりパッとしないのに、なぜだか女の子に好かれる男子が。きっと彼も、そういった類の人間ね」

 私が説明すると、彼はあぁと情けない声を出して納得する。これで彼にもこの依頼がどれだけイージーか理解してもらえただろう。次は、どうやって彼と件の女子生徒をくっつけるかと言うことなのだが、これは簡単だ。

 どうして告白をするのに勇気がいるか。それは簡単なことで、怖いのだ。振られるのが、関係が崩れるのが、周りに知られるのが。そう言った不安要素があるから、告白を恐れてしまう。

 じゃあどうすればいいのか。答えは簡単。絶対に振られないとわかっていればいいのだ。宝くじだって百%当たるとわかっていれば誰しもが買うだろう。でも当たるかわからないから、買う前に躊躇する。

 告白も同じ。意中の相手と付き合えるとわかっていれば、誰だって告白をするだろう。つまり、私たちの今回の仕事は、その不安要素を取り除いてあげることだ。

「明日の昼休み。米太郎くんの好きな相手から言質をとるわよ」

「言質って?」 

「米太郎くんを好きかどうかよ。まあどうせ『好き』って答えるから、あとは答えを米太郎くんに教えてあげれば、私たちの仕事は終わりってわけ」

「どう、簡単でしょ?」と言ってみるが、新藤くんは、そんなにうまくいくかな〜と独り言を漏らしていた。この男は何を不安がっているのかしら。

 ここまで完璧な作戦もなかなかないだろう。もはや成功の二文字しか見えない。なんだかすでに成功した気になった私は、気分が良くなる。

 絶対に成功する確信を持ったまま、私たちは明日の作戦に臨んだ。

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