第47話意外な展開

 迷惑な来訪者がきた翌日の放課後。今度は米太郎くんが、恋愛部の部室に一人で来た。

「昨日はすいません。二人は置いてきたので……」

 たははっと微笑をこぼしながら、新藤くんの横に座る米太郎くん。私はそんな彼に、改めて要件を尋ねる。

「それで、結局なんの用なの? 見た所あなたは何故かモテているようだし、私たちがお手伝いできることはないと思うのだけど……」

 私が軽くけなしながら言うと、米太郎くんは苦笑いしながら返答をしてくる。

「あはは……。まあとりあえず聞いてくださいよ」

 ぽりぽりと頬を書きながら言ってくる米太郎くんの話に、私は耳を傾ける。私たちが聞く姿勢に入ると、米太郎くんはおもむろに、そして気まずそうに話し始める。

「実は僕、好きな子がいるんです……」

 赤面しながら普通のことを言ってくる米太郎くん。まあ知っているし、そんな恥ずかしがるようなことではないと思うけど。でも改めて考えてみると、人に恋愛相談を真面目にするのが恥ずかしいって、結構当たり前の感情なのではと思う。私は今までに意中の相手が居たことないからわからないけど、きっと当事者になれば私も人には相談しないだろう。

 って考えると、今までここにきた人たちってかなり勇気があったのねと感心しつつ、彼に続きを促す。

「そう……。それで、どっち?」

 主語なんてつけなくてもわかるだろうと思い聞いてみるが、彼は意味がわからないと言った様子だ。なのでもう少しわかりやすく噛み砕いて聞いてみる。

「昨日の二人のどっちが好きなのって意味よ」

 わかりやすくもう一度聞くと、米太郎くんはなるほどと納得した様子で、少しだけ目を伏せて答える。

「あの二人のどっちでもないです、僕が好きなのは……。それにこんなこと言うのは申し訳ないけど、あの二人に学校でくっつかれると周りの視線が痛いんです。だからやめてほしいなって……」

 彼の衝撃的な言葉を聞いた私は、思わず昨日の女達に同情してしまう。だってあれだけ大胆にアピールして「自分のものだ!」と言わんばかりの言動をとっていたのに、それが実際は好かれていないどころか、若干嫌われているのだから。

 不憫な昨日の女のことを思い出し、私は内心で嘲笑う。実際昨日の彼女達は、なんだか被害妄想が激しくて人の話を聞かないうざい女だなと思ったしね。

 だから彼にそう思われてしまうのも、自業自得だなと思う。

 いい気味だと思っていると、彼は「それに」と話を続ける。

「これは本当に自慢じゃないんですけど、僕って昔っからなぜか女の子から好かれることが多くて……」

 思いっきり自慢にしか聞こえないのだけど、ここは野暮なツッコミを入れずに彼の話を最後まで聞こう。

「だから昔っから女の子と遊ぶことが多くて、同性の友達とかも少なくて……」

 なんだか彼も彼なりに人にはない悩みを抱えていそうだ。それにしても異性から好かれるって……。一体どんな子がいるのかしら。気になった私は、米太郎くんに質問してみる。

「ねぇ、昨日の二人以外の人ってどんな子たちなの?」

 直球で質問してみると、米太郎くんは「そうですね……」と呟いた後に、数多くの女性の名前をあげてくる。

「小さい頃から隣に住んでる幼馴染の誠とか、留学生のセネとか、あとは同じバイト先の先輩の杏奈さんとか……」

「えーと、もうわかったから大丈夫よ」

 なんだかこのままだと無限に続きそうな気がしたので、私は自分で質問しといて無理やり止める。というか、家が隣の幼馴染はともかくとして、なに留学生って。そんな人この学校にいたの?

 いたとしても、何故よりにもよって目の前のこの男子を好きになるの? もしかしてこの、一見なんの変哲もない普通の男子高校生は、周りに特殊な事情を抱えた女子ばかりが集まる特殊スキルでも持っているのだろうか?

 だとしたら……。

 私は「んんっ」と軽く咳払いをすると、昨日新藤くんと話した話をする。

「もしかしてだけどあなた、血の繋がってない妹とかいたりするの?」

 恐る恐る聞いてみると、米太郎くんは驚いたような表情を作る。

「よくわかりましたね。僕には義理の妹が二人いるんですよ」

 本当にいた。しかも二人。どんだけ欲張りなんだ。そのモテ属性を、あなたの隣にいる全くモテない主人公のかけらもない男に分けてやってほしい。私が新藤くんに哀れむような視線を向けると、彼は「文句があるのか?」といいたげな目線を向けてくる。

 なので、私は露骨に深いため息を吐き、やれやれといいたげな仕草をする。この男は本当に主人公なのだろうか? もしかして本当はこの米太郎くんが主人公で、隣の男はなんかのイレギュラーで出てきてしまった、本来背景と同化するモブキャラなんじゃないのか?

 きっと、いや、絶対そうだ。新藤くんという存在は、この世界のバグに違いない。

 本人が聞いたらひどく激昂しそうなことを考えつつ、私は米太郎くんに向き直る。

「とりあえず、あなたの意中の相手は誰なの? それを聞かないと始まらないのだけど」

「あ、そうでした。まあその、普通に中学が同じのクラスメイトです………」

 普通だ。あんだけ特殊な事情がありそうな女子の名前を挙げられたのに、肝心の好きな相手はすごく普通だ。というか、どうせその子もこの米太郎くんのことを好きなんでしょ。だって、あんだけ美少女から好意を寄せられているのに、よりによって米太郎くんが好きな相手から好かれていないなんてあるはずもないのだから。

 私がいちいち作戦を立てるまでもない。

「だったら普通に告白すればいいじゃない」

 簡単に言って見せると、彼はぽりぽりと頬を掻く。

「それができたら苦労しませんよ……」

 なんだか哀愁漂う雰囲気だ。勇気が出ないとか? 私は問い詰めるように質問する。

「ほんのちょっと勇気を出すだけじゃない。もしかして関係が崩れてしまうことを恐れているの?」

「確かに、勇気が出せないってのはあります。でもそれ以上に、僕のことを好いてくれている人たちを振るのがなんだか申し訳なくて……。どうして僕なんかを……」

 あまり自己肯定感が高くないのか、自分のことを卑下する米太郎くん。確かに私も彼がどうしてそんなにモテるのか疑問に感じたりもした。でもきっと、私にはわからない、彼女達にしたわからない魅力が彼にはあるのだろう。そのことを伝える。

「『僕なんか』なんて言うのは、あなたを好きになってくれた彼女達に失礼よ。あなたにはきっと、あなたがわからない魅力があるのでしょ。だからたくさんの女性があなたを好きになってくれる……。そこの魅力がどこにもない男を見なさい。哀れなことに、誰からも相手にされない悲しきモンスターよ」

 私がいいことを言うと、なぜだか新藤君が噛み付いてくる。

「え? まさかここで俺に砲弾が飛んでくるとは思わなかったぞ。なんなのお前? いちいち俺を卑下しないと会話できないの?」

「あらごめんなさい。つい癖でね」

「クソみたいな悪癖だな。そんなんだからぼっちなんだろ」

「別にいいわよ。あなたみたいにクラス中の女子から嫌われるよりかはましだから」

「べ、別に嫌われてねーし」

「あら? 声が震えてるわよ。図星を突かれるのは痛いみたいね」

「このやろう……」

 米太郎くんのことなどそっちのけで新藤くんをからかっていると、私たちのやりとりを聞いていた米太郎くんが突然笑い出した。

「あはは。お二人とも、すごく仲が良くて羨ましいです。部活も二人だけのようですし、もしかして付き合ってるんですか?」

 いきなりとてつもなく屈辱的なことを言い始める米太郎くん。いきなり話が飛躍しすぎだ。どうして二人で部活をしているから付き合うことになるんだ。

 私はこれでもかと言うほど彼の見当違いな誤解を解く。すると米太郎君は、自分の酷い過ちを反省してくれる。

「そうだったんですか……。僕はてっきり」

「そんなわけないじゃない。まあいいわ。それよりも結局、あなたの依頼は件のクラスメイトと付き合いたいってことでいいかしら?」

 色々と話が脱線してしまい彼の依頼を聞きそびれていたが、要はいつもと一緒だ。私が確認を取ると、彼は不安そうに。

「そうですけど、でもそんな簡単に……」

 とぼやいた。しかし私からしてみれば、今回ほど簡単な依頼はない。逆に今までのはなぜ成功していたのかわからないぐらいだ。私は自信満々に胸を張ると。

「任せない。あなたがほんの少し勇気を出せば、きっとうまくいくわ」

 勇気付けるようにして言い切る。

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