第46話嵐のような時間

「すいません。恋愛部ってここで合ってますか?」

 身の丈に合わない二人の美少女を引き連れたその男子生徒に「ええ、そうよ」と言い放つと、私はソファーから立ち上がり新藤くんの隣に座り。

「どうぞ掛けて」

 私が座っていたソファーへ手を差し出す。すると、見た目が平凡な男子と一緒にいた金髪碧眼ツインテ美少女が、男子生徒の腕をグイッと引っ張る。

「あたし、コメの隣ねー!」

 無理やり腕を引っ張り、男子生徒と一緒にどかっとソファーに座った。すると、もう一人の髪色がピンクというかなり奇抜な髪色をした美少女が。

「こ、米太郎くんはうちの隣です!」

 金髪美女に負けじと、米太郎と呼ばれている男子生徒の横に座った。私と新藤くんの前には、左から金髪、米太郎、ピンク髪の順番で並んでいる。どうしてここには毎度、変な人たちが来るのかしら。思わずため息が漏れ出そうになるのを必死に我慢して、私は要件を促す。

「それで、何の用かしら?」

 私が真ん中に座っている米太郎くんとやらに問いかけると、米太郎くんはポーと顔を赤らめて目を伏せる。すると次の瞬間、両隣の美女が「あ –––––––––!」と騒ぎ立てる。

「おいコメ! いま篠原の顔見て照れただろう!」

「どういうことですか!? 別に篠原さんなんて、全然可愛くないじゃないですか!」

 いきなり酷い言われようね……。いつもならここでこの子たちを再起不能になるまでボロクソに言ってやるところだけど、私の第六感がこの子たちと関わるなと言っている。だから何も言い返さず、ハハッと苦笑いを浮かべる。

 そんな二人の態度を、米太郎くんは叱りつける。

「おい二人とも。失礼だろ! ごめん篠原さん。二人にはきつく言っとくから」

 米太郎くんが二人にきつく言うと、二人は素直に謝ってきた。でも言葉だけで、目は私のことをきつく睨んでいる。なんなのかしら、この人たち……。ここは他人の恋愛を叶える場所だけど、目の前の彼はそう言った悩みとは無縁に思える。だって、私よりかは劣るものの、それでも十分に可愛い女の子を二人も侍らせているのだから。

 私はもう一度、今度は目だけで彼に「何の用だ?」と尋ねるようにジトッと見つめる。するとまた、隣の二人が騒ぎ出した。

「あー! この女、コメのこと絶対狙ってる! おいみさき、見たか今の視線? 完全に惚れてたよな?」

「えぇ、全く。いくら米太郎くんが魅力的な人だからって、どんだけちょろい人なんですか? あれですか? 最近流行りの、即落ち二コマと言うやつですか?」

「………………」

 なんなのこの人たち? どんだけ自意識過剰なの? いや、この場合は他意識たいしき? まあなんだっていいけど、とにかくムカつく人たちね。私がだんだん苛立ってくると、隣に座ってる今まで完全に空気と同化していた新藤くんが、私を宥めるように「まあまあ」と落ち着かせてながら、無理やり話を進めようとする。

「とりあえず何の用件か教えてもらえるか?」

 新藤くんが話を進めるため米太郎くんに聞くと、何故か隣に座っている二人の女がまたしても騒ぎ立てる。

「おい、こいつあれじゃね。目があったら妊娠させてくる例の……」

「あ、本当だ。ことりちゃん。絶対に目を合わせちゃダメですよ」

「ブーッ!」

 二人が突然新藤くんのことを馬鹿にするので、私は思わず吹き出す。その後、ケホ、ケホとむせてしまう。ダメだ。面白すぎる。どうして新藤くんが馬鹿にされるだけでこんなにも面白いのかしら……。若干涙目になりながら、私は隣でワナワナと震えている新藤くんの方を見る。すると彼もこちらに目を向けてくるので、サッと目を逸らす。

 そんな私達のやりとりを見ていた目の前の女たちは。

「やっぱり噂は本当だったんだな」

「えぇ……。全く、恐ろしい人です」

 なんて会話をするので、私はまた吹き出しそうになる。

 そこで米太郎くんは二人を咎めた後に、また出直すと言って部室を出て行った。嵐のような時間だったなと思いながら、私は先ほどの会話を思い出して、またしてもクスクスと笑ってしまう。

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