第45話ヒロイン

「そもそも、いつになったらこの作品にヒロインは登場するの?」

 首を傾げて聞いてくる篠原だが、なんだよヒロインって……。

「いや、知らねーけど」

 篠原の発言にまたしても適当に返すと、篠原はため息混じりに俺のことをディスってくる。

「あなた、仮にも主人公なのにどうしてモテないの? どうして補正がかかってないの? もしかして補正ありきでそれなの? どれだけ魅力がないの?」

 なんだよ補正って。生まれてこのかた一度もモテたことねーんだから、あまりその辺のことをつっこまないでほしい。危うく人生のリセマラしたくなっちゃうだろ……。俺は心に深い傷を負いながら、篠原に聞き返す。

「うるせーな。いいんだよ別に。そもそもヒロインって、どういうやつが来て欲しいんだよ?」

 俺が聞くと、篠原は首を上に向けて「んー」と唸り声を上げると、淡々と言い始める。

「そうね。例えば、金髪碧眼ツインテツンデレ幼なじみとかいう、始まる前から負けが確定している八百長ヒロインとか。もしくは、小さい頃将来を誓い合って以来、高校に上がるまで一度も会っていなかったのに、その約束を律儀に覚えていて、なおかつその間、他の男には目をくれず、ずっと主人公を一途に思い続けてきた都合のいい女とか。そういう魅力的なヒロインの一人や二人虜にすることはできないの?」

「できねーよ!」

 どんな女だよそれ! 確かに俺もラブコメを読んでいた時に都合のいい奴らだなーとか思ったことはあるけど、それを口に出すなよ。つーか、やっぱり現実とフィクションの区別が付いてねーのはこいつじゃねーか。

 現実にラブコメのヒロインみたいな奴らがいたら、絶対お近づきになりたくない。

 そこで俺は、目の前の同級生を見てハッとする。

 こいつ、めちゃくちゃヒロインっぽい。なんか友達いないし、その割にはスペック高いし、キャラすげー立ってるし……。

 もしかして俺は将来こいつと付き合ったりするのかな? ジトーと半目で篠原を見ていると、篠原は携帯から目を離さず。

「ちょっと、ネバネバした気持ちの悪い視線を向けてこないでくれるかしら?」

 一瞬たりとも俺の方へ視線を向けてないのに、何故だか俺の視線に気づきすぐさま罵倒してきた。やっぱりこいつと付き合うなんて未来は、天地がひっくり返ってもありえない。 

 顔の良さが百点だとしても、性格がマイナス千点は軽く超えてる。俺は今まで顔さえ良ければ性格なんてどうでもいいと思っていたのだが、篠原と出会ってからその価値観がひっくり返った。

 やっぱり顔も性格もほどほどの女性が一番魅力的だ。篠原は顔のせいで、ちょっと、というかかなり傲慢なところがあるし、篠原は顔がいいことでこんな性格になってしまったのかもしれない。そう思うと、かわいそうな気さえしてくる。

 俺はかわいそうな子を見るような目で篠原の方へ視線を向ける。すると篠原は、携帯から顔を上げ。

「なにその目は? すごく腹立たしいのだけれど」

 睨んでくるが、俺は声色を優しくして。

「いや、お前もかわいそうなやつだなって思って……」

 謎に上から目線で同情すると、篠原はよりきつく俺を睨んでくる。

「あなたに同情されるとものすごくムカつくのだけど、なんなの? 人を苛立たせる才能でもあるの?」

「そんな才能はねーよ。むしろ、お前の方があるだろその才能」

「そんなことないわよ。私が酷いことを言っても、顔がいいから許されるもの」

 そんなナルシストのような発言をする篠原に、俺はまたも哀れみの視線を向けてしまう。またしても篠原にとってはムカつく視線を向ける俺に対し、篠原は前のめりになり戦闘態勢に入る。

「だいたい、このままあなたがモテないでヒロインが出てこないと、私とあなたが結ばれるバッドエンドしかないのだけど」

「おい。人と付き合うことをバッドエンドとかいうなよ! 主人公と最終的に付き合えるとか、ヒロインにとってはこの上ない幸福だろ」

 俺が返すと、篠原は「うわぁ」と口に出し、ドン引きする。なんなのこいつ? 

 一回だけ法律を無効化できる券とかあったら、こいつに飛び蹴りを食らわせてやりたい。

 俺たちがいつものように口喧嘩をしていると、ちょうどそのタイミングで部室の扉が二回ノックされ、篠原は態勢を戻すと扉の方へ顔を向け「どうぞ」と言い放つ。 

 すると扉の外からは、二人の美少女を連れたイケメンとは言い難い男が入ってきた。

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