第42話笑う住人

町の門に近づくとほかの町に見えた兵士の姿が見えなかった。


2人は恐る恐る門に近づくがやはり門番の兵士はいないようだった。


2人は門をくぐるとそこに見えたのは町の住民がみんな笑顔で商売をしていたり笑顔で話し合う人の姿などまるで悪魔などいないような様子だった。


アランは門の近くで話していた人に町のことを聞いた。


「すみません、ここって門番とかいないんですか?」


アランに気づいた男が話すのをやめアランの方を向いた。


「もしかして旅人かい!?」


男は何か期待した様子で聞いてきた。


「まあ、そうだけど。」


「おい、みんなー!!旅人だぞー!!」


男は町に向かって大声で叫んだ。


すると町の人がアラン達の元に集まりだし一瞬で身動きできないほどに人が集まってきた。


「旅人さんいらっしゃい!!」


「俺の店の果物持って行ってくれ!!」


「ぜひ俺の店に寄って行ってくれ!!安くしとくから!!」


「旅人さーん!!僕に外のお話きかせてー!!」


町の人が一斉に話しかけてきてアラン達の耳には何が何だかわからなかった。


すると町の人の中から一人の男が両手を上げ、大きな声で叫んだ


「おい、みんな!!!静かにしてくれ!!!」


男が言うと次第に町の人は静かになっていった。


「みんなが一斉に話しかけたって旅人さんが困るだろ!!


 旅人さん、とりあえず宿まで案内するよ。ついてきて。」


男は馬車が通れるように町の人を端にどかしながらアラン達を先導した。


町の人たちはアラン達に静かに手を振って見送った。


レイミヤがあたりを見ていると家の端から汚れた布を被った小さな子供がこちらを見ているのを見つけた。


しかし、レイミヤと目が合った子供はすぐにその場から離れてしまった。


「アランさんちょっと待ってください。」


レイミヤが言うとアランはサンを止めた。


「どうしたのレイミヤ?」


アランがなぜ止まるように言ったのかを聞く前にレイミヤはサンから降りて子供がいたところまで行こうとすると、一人の女性が目の前に現れた。


「すいませんそこをどいてください。」


「旅人さんはこれ以上先に行ってはなりません。それがこの町の決まりです。」


「しかし、先ほどこちらに子供が。」


「旅人さん今すぐお戻りください。」


女性がサンの方に向かって指さした。


レイミヤが後ろを向くと先ほどまで笑顔で歓迎してくれていた町の人が真顔でレイミヤのことを見ていた。


レイミヤは思わず息をのんだ。


「分かりました。」


ただならぬ様子を感じてレイミヤはその場を離れサンに乗った。


サンに乗りまた町の人の顔を見ると笑顔が戻っていた。


「どうしたの、レイミヤ?」


アランからはちょうど町の人の顔が見れなかったので急に町の人の顔から笑顔が無くなったことを知らなかった。


アランからすればまだ優しい町の人。


しかしレイミヤからすれば作り笑いの何か薄気味悪い町の人に見えていた。


「いえ、なんでもありません。」


レイミヤはアランの服をつかみ顔を下げうつむいた。


その様子を見たアランは何かを悟ったが今は聞かないようにした。


「レイミヤ、あとで何があったか聞かせて。」


アランはそう言うと男の先導についていき宿を目指した。


町の人たちからアラン達の姿が無くなると町の人は黙々と元の位置に戻っていった。


「いやー、旅人さんが来るなんてほんと久しぶりだな。もう何年も来てなかったから町の人はよほどうれしかったんだろうね。いきなり騒がしくしてごめんね。」


「いえ、大丈夫です。この町は賑わっているんですね。」


「ええ、ここの王様のおかげで貿易が良好に進むから楽に暮らせているよ。そうだ、俺の名前はパリアッチョこの町の案内役だよ。」


男はアランの方を向きながら歩き始めた。


「俺の名前はアラン、彼女はレイミヤ、よろしく。」


「もしかして二人は恋仲とか?」


「ち、違うよ!そんなのじゃないよ。」


「ふーん、そうなんだ。大丈夫かい?さっきからうつむいてるけど。」


レイミヤは町の人たちが見えなくなったそのあともずっとアランの服をつかみうつむいたままだった。


「きっと疲れたんだよ。早く宿で休ましてあげないと。」


「そっか、長旅お疲れだったんだね。宿までそう遠くないからこのまま真っすぐだから。」


パリアッチョに案内されていたが、門からずっと一直線の道をただただ進んでいた。


途中に曲がり角はなく門からここまでは一本の道だった。


パリアッチョに案内されるがまま進んでいると宿に到着した。


「旅人さん、ここがこの町の宿のガッビヤだよ。」


宿の外見は特に豪華なわけではなくいたって普通の民家のような外見だった。


「馬は横にある馬小屋に置いて行ってね。」


アランとレイミヤはサンから降りてアランはサンを馬小屋と引っ張っていった。


その時もレイミヤはアランから離れることはなかった。


アラン達は荷物を持ち宿の中へと入っていった。


中へと入るとパリアッチョが宿の主人と何かを話している様子だった。


「おや、あんたがパリアッチョが言っていた旅人さんかいな。久しぶりの客だからお代はいらないから


ゆっくり好きなだけ休みな。女の子もいるようだし部屋は二部屋でいいかな?」


宿の主人が鍵を二つアランの前に差し出した。


「それは助かるよ!」


アランが主人から鍵を受け取ろうとすると


「あの!!」


レイミヤが突然大きな声を出した。


その声を聴きアランは鍵を取る手を止めた。


「どうしたのレイミヤ?」


「突然大きな声を出すんじゃないよ。びっくりするじゃないか。」


「部屋は一部屋がいいです。」


レイミヤはアランの服をつかみながらそう言った。


レイミヤの発言にアランは驚いたが、未だ震えているレイミヤを見て何かおかしいなと感じた。


「大胆なお嬢さんだ事。部屋はどうするんだい?」


「一部屋の二人用のベッドはないかな?」


「あいにくだが二人用のベッドは家にはおいてないんだよ。」


「なら普通の部屋で二人で泊まるよ。」


そう言ってアランは宿の主人から鍵を一つ取った。


「いやいや、それは困るんだけどな。宿の主人的には一人一部屋がこの宿の決まりなんだよ。それを乱されちゃあこっちが困っちまうんだけどな。」


宿の主人は腕を前で組み眉間にしわを寄せていた。


「まあまあ、今回だけは許してあげなよ。久しぶりの客だと思ってね。」


アランと宿の主人の間にパリアッチョが割って入ってきた。


パリアッチョは宿の主人に向かって笑顔を向けると、宿の主人は急に考えを改めた。


「今回だけだからね。それにこの宿には墓に客はいないけどあまり騒がしくしないこと。そして、決して地下室には入らないこと、これだけは守ってくれ。」


「分かった。ありがとうパリアッチョ。」


そう言ってアランとレイミヤは渡された鍵の部屋へと入っていった。


部屋のドアを閉めると誰かがドアをノックした。


「旅人さーん。」


聞こえた声はパリアッチョだった。


アランはドアを開けた。


「言い忘れていたんだけど、今進んできたこの道以外にはどこにも行かないでね。この一本道には何でもあるからそれで事足りるはずだから。」


「分かったよ。今日は本当にありがとう。」


「お休み、旅人さん。」


「お休み、パリアッチョ」


パリアッチョはドアを閉めるときも笑顔だった。


ドアが閉まるとパリアッチョの顔から笑顔が無くなりしばらくアラン達が休む部屋の前で立ち尽くした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る