midday2③

 はっと気を引き締め、一度気配を消して退く望月。

「葛谷課長、あなたには千鳥出版への営業をお願いしていたはずでしょ。こっちでは道が違うわ。それから長谷さんに至っては、勝手な行動を許した覚えはないのだけれど。ああそれで、あなたに頼みができたの。今から三十分以内に、セレクトショップ・ブランカからモスグリーンのフリルカットソーとラベンダー色のプリーツスカートを受け取ってきて。それを明日の撮影スタジオに置いてきたら、今日は上がっていいわよ」

「ほ、本当ですか。まだこんな時間なのに」

「ええもちろん。あんみつ亭の抹茶プリンを買ってきてほしいからね」

 あんみつ亭というと確か、隣の県の山奥にある有名な和菓子屋の名前だ。ここからだと車で片道一時間強。テレビや雑誌で何度も見たことがある商品だし、今から行っても、もう完売してるなんてことは……。

「二人とも、よろしくね」

 澪はウインク一つで、二人を完全に沈黙させた。そうして各々が散っていく。後ろを気にしながら逃げるような男に対し、桃子はひたすらに忍ぶ人間だった。

 仕事仲間からのセクハラに、芹沢からの無理難題。彼女は何人もの身近な人間に、辛く当たられているというのか。それに今思えば、あんな遅くに依頼しに来たのも、残業でその時間にしか来れなかったからなのかもしれない。

 早くもトレンチコートを脱ぎ、きょろきょろと持ち主を探す桃子。純白のシャツに包まれたその背中は、痛々しいほどに健気だった。

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