リフレクト3②
「この曲って、夢見る人への応援ソングなんですよね。そう思って聞くには、あまりに寂しいというか、暗すぎると思います」
「ああ、それはある程度わざとなんだ。渚ちゃんの歌詞がすごく現実的で、人の愚かさなんかもよく描かれているから、ぜひそれを活かしたくて」
日向が慣れた手つきでギターを下ろす。渚は少しためらった後、傍らに座る男を見据えた。
「私はただ、嘘をつきたくなかっただけです。本気で夢を抱く人へのエールに、薄っぺらい励ましや労いなんて失礼でしょうから。でも、現実ばかりで希望がないのは、やっぱり悲しいです」
「……そうだね」
最後の言葉を噛み締めるように、日向が呟く。
「けどさ、努力した先に希望があるかどうかなんて、正直誰にも分かんないよな」
それは胸を突くような、乾いた笑いだった。弱音でもあった。私は、何も言えなくなった。
「渚ちゃんの意見を否定してるわけじゃないんだ。ただ、ちょっとそう思っちゃってさ。実は俺ら、最初は五人でバンドを組んでたんだ。大学二年ぐらいまでは、みんなまだ馬鹿やってられたんだけど、就活が近づくと、いつの間にか半分いなくなっちゃってた。あいつらはホント意気地無しだよ、とかそんなことは断じて言わない。夢を叶えることの難しさを知ったら、どんな努力も虚しく見えてくるってもんさ。むしろ社会的には、ちゃんと踏ん切りをつけたあいつらの方がまっとうなのかもしれないな」
じゃあ日向さんたちは、何のために夢を追っているというのか。むろん夢を叶えるために決まってる。でも、最終的には運に頼るしかなくて、努力と結果が比例するわけでもなくて。
ならば、何のために夢を追うのか。なぜ夢を追うのか。追わなくてはならないのか。
そもそも夢って、どうしても持たなくちゃいけないものだろうか。
私は、反射的にその思考に蓋をした。
「空気重いなぁ」
どこからともなく上がった声が、高架下に反響する。見ると、橋の向こう側から、律が歩いてくるところだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます