リフレクト3①

 それからは主に、作詞作曲の二人が個々に制作を進めていった。時折チャットで進捗を確認しながら、草案を評価し合い、批判し合い、全員でよりよいものへと磨き上げていく。それはとても有意義な時間であった。私の参加に難色を示していた銀次はというと、あまり積極的に意見することはなかったが、一応どのメッセージにも既読はつけてくれているようであった。

 そんなある休日のこと。渚は日向から、一度対面で調整してみようという提案を受け、とあるショップ通りで待ち合わせた。

「さ、行こうか」

 挨拶もそこそこに、通りとは反対方向に歩いていく日向。

「あれ、街に用があるわけじゃないんですか?」

「残念ながら、俺らなかなか貧乏でさ」

 そう自嘲しながらも、背中のギターケースはスキップするみたいに揺れていた。

 建物だらけの市街地から外れると、ちらほらと田畑の姿が目立ってくる。土を被ったアスファルトを、日向はなおも進み続けた。いったいどこへ向かうつもりなのか。大して急いでいる様子はないのに、男子だからか歩幅が広く、ついて行くだけでかなり疲れる。いつものスニーカーを履いてこればよかった。

「ここにしよう」

 不意に立ち止まったのは、一部が自転車置き場にもなっている高架下だった。比較的黒ずみのない高架橋の足に、厚手のバスタオルを敷いて腰を下ろす。渚はもう、きょとんとするしかなかった。

「あっ驚かせちゃった? 実は俺ら、騒音で迷惑かけないように、いつもこういうところで演奏するんだ。元々音が大きい上に、人気が無いし、物陰だから熱唱しても目立たない。念のため時々場所も変えるけどね。本来なら、カラオケボックスとか音楽スタジオみたいな防音室を借りるんだろうけど、毎回それだと懐が氷点下になっちゃうからさ」

「あ、なるほど……もしかして『under the highway』ってそこから?」

「そうそう、察しがいいね。学生の頃から高架下に集まって練習してたから、なんか青春っていうか、夢や情熱が詰まってる感じがして」

 日向の視線が、だんだんと決まりが悪そうに逸れていく。それがギターケースを見て止まった。彼はエレキギターとノートをそそくさと取り出して、渚に席を譲る。

「とりあえず、二番の終わりまで歌ってみようか。あんまり歌詞とマッチしてないとか、ここの強調が足りないとかあったら、遠慮せずに言いつけてね」

「言いつける……はい、分かりました」

 日向が、消しゴムの跡で黒ずんだページを足元に開く。エレキギターにミニアンプを繋ぎ、音量調節。ピックを手に取った。

 イントロは独唱。凛々しく頭サビを歌いのけ、痛快なほどにギターをかき鳴らす。その一瞬で、心を奪われた気がした。

 けれど。

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