midnight5④
「詮索したことがバレたらね」
ニタリと笑う類。望月はとっさに彼から飛び退いた。すると目の前を、何か硬いものが通り過ぎていく。思えばここは、類のテリトリーだった。音もなく着地すると、今度は床タイルが一つだけ、妙に沈み込む感触を覚えた。一気に部屋の外まで転がり出る。網目の細かいネットが視界を掠めた。
「さすがは望月、勘と反射神経だけは獣並みだな……ってお前は死神か」
「その通り。死神は怒らせると怖いんだぞぉ」
おどける望月を、類が鼻で笑いながら立ち上がる。
しかし。
「あれっ?」
下半身に痺れが走り、類はその場にへたりこんでしまった。拘束された時と同じ痛みだった。
「しばらく神経がイカれてるだろうけど、たぶん今日中には治るから、たぶん」
望月はあからさまな笑顔を作り、去り際にバイバイと手を振った。
類が長い息を吐く。リモコンで捕縛装置をオフにしてから、痛む身体を大の字に広げた。
今回は、反撃の反撃に反撃されたわけだから、一応僕の負けか。ひょっとして、やつに決着をつけられたのは、今日がはじめてじゃないか?
彼は無意識的に、あるエピソードを思い返していた。
当時巨大勢力を誇っていた暴力団が、一夜にして壊滅した怪奇現象の話。組織の規模だけに腕の立つ者も相当数いたはずだが、末端の末端から組長まで、恐ろしいほど均等に半殺しにされていたという。
これをしでかした犯人は、生も死も手の内で転がせる怪物なのだ。人々はそう言って、恐怖の権化と化した裏社会の新参者に名を与えた。望月の夜に降臨した死の管理人、望月の死神の誕生であった。
部屋の隅で安静を図りながら、ふと気付かされる。
僕はまだ、望月の本気を見たことがない。
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