リフレクト3③
どこからともなく上がった声が、高架下に反響する。見ると、橋の向こう側から、律が歩いてくるところだった。
「偶然だな、お前も練習に来たのか」
「三分の一はそんなとこ。今日二人で話し合うっていうから、のぞき見してやろうかなっていうのが三分の一。残りは応援と差し入れ」
どさっとコンビニの袋を差し出す律。力なくめくれたビニールから、何本かのペットボトルや菓子が見えた。
「おーサンキュ!」
快い音とともにキャップが開けられ、ほぼ丸一曲歌いあげた喉が、美味いと言うように上下する。
律が渚に話しかける。
「さっき盗み聞きした感じだと、曲の雰囲気が暗いってのが一番の問題なんだろ。そいつは俺も同感だ。後でちゃんとしたリズムやエフェクトを付ければ、また違った聞こえ方になるだろうけど、それでも応援ソングには程遠い。夢がどうのうって話に関わらず、改善は不可避だろうな」
日向がペットボトルから口を離す。
「そうなんですね……出だしは好きだったんですけど」
「そこって日向のソロだっけ?」
「うん、前送ったデモと一緒だよ」
日向は飲み物を捨て置くと、ノートを手に取って凝視する。
「じゃあ独唱スタートは固定で、とりあえずキーを上げないと」
「ならいっそオクターブ上げちまえ。今回のコード進行は、俺も結構気に入ってるんだ。なにも中途半端にキーをプラスして、今までのを使えなくすることはない」
「でもそうすると、サビがだいぶ高音になっちゃうな……まあ、頑張って声出すよ。あとは、歪んだ音がするコードも変える?」
「あーそれそれ、思い出した。前から言おうと思ってたけど、お前最近7thのコードに恋してんの? 今回めっちゃ多用してるよね。例えばここのC7sus4とかは、Csus4でも置き換えられる。とすると、次のC7もCに変えなきゃいけないから……」
二人はノートに顔を寄せ合い、専門用語を連発していく。そのうちに律もギターを取り出し、実際の音色を聞きながら、本格的な修正を始めていった。事は順調に進んでいるようだ。
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