midday2①
芹沢澪が所属する前山プロダクションは、駅前オフィスビル群のちょうどど真ん中にあった。しかもいざ来てみれば、周囲と比べても一際高いビルが、丸ごと本社になっているご様子。まったく、財力を示す棒グラフが実体化したみたいだな。
いつも通りの下調べと言って出掛けてきたものの、これだけ眩しい場所に赴いた経験などほとんどなかった。それはプライベートでも同じことで、元々広い人間関係を持つのは苦手だったし、唯一表社会と繋がれる『Yellow Iris』も、最近は何かと類に任せっきりだ。
だがまあ過敏になることはねぇさ。気を引き締めることは重要だが、行き過ぎれば心身を硬直させ、結局自分の首を締めることになる。俺に武術を教えてくれた父の言葉だ。傍らにはアイツが居て、瞳を輝かせながら同じ言葉を聞いていた。だから、絶対に忘れちゃいけない。
風が立つ。望月はふと追憶から覚めて、デジタルの腕時計を見下ろした。そろそろこの通りも、駅に向かう多くの会社員で混み合ってくる頃だろう。となれば、こちらも動き出さねばならない。
一般人の芹沢ファンという設定上、彼女を探すにも特別な策は講じず、地道にあちこち探し回っている方が自然に見える。人混みに紛れていれば、ある程度ちょこまか動いても――
「やめてくださいっ」
突如として、緊迫した女の声が聞こえた。くぐもった男の声に混じり、切れ切れに苦しそうな悲鳴が上がる。
望月は迷うことなく駆け出した。声の主を探して、周りをくまなく見て回る。途中、幾度となく芹沢のことが脳裏をよぎった。しかし無視した。そして見つけた。男が表通りに背を向け、女を路地裏に押し込んでいるところだった。
「ちょっと、あなた何をしているんですか」
望月が背広の肩に手をかける。
「何って、道端で友人と世間話をしていただけですよ。何か問題でも?」
呼びかけには素直に応じ、柔和なビジネススマイルを浮かべる中年の男。ようやく女の姿が見て取れた。唖然とした。その女とは、長谷桃子であった。
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