第4話
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その日、芦屋財閥の車が七緒を迎えにきた。運転手以外に乗ってるのは智久だけだった。「亮一君は?」と鬼気迫る七緒に「これから波止場に行きます」二人きりの時間は短いので、迅速に意志を伝えあってください。智久はきりっとした顔で命令した。やがて、波止場に着くと一槽の船が出港を待っているのが見えた。車を降りた七緒は「亮一君」と叫んだ。
船の枠を背もたれにしていた亮一が振り替えると、波止場に涙まじりの七緒が見えた。
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前髪をくしゃとかいた亮一は「ぷくぷくぷくんは願いを叶えるためには手段を選ばない犯罪者です」と遺言として亡き祖母に教わった大切な本当の意味を教えてくれた。「だから、貴女はぷくぷくぷくんじゃないけど」一生懸命伝える亮一。必死で聴く七緒。「僕の中では僕のぷくぷくぷくんなんです」だから「さよなら……」と言った時に二人を汽笛が妨げた。でも七緒は見てしまった。亮一の唇が「はつこい」と動いたのを。
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そうして、きゅんきゅんする胸を落ち着かせる為にへたりこんだ七緒に智久がジャケットを羽織らせた。「はつこい」と七緒は唇に指を滑らせ発音した。それから月日がたち七緒の中で亮一の思い出は力を入れるためのマストアイテムになっていた。
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もう産休ではなく正式な音楽教師として働く彼女に好感を感じた教頭がお見合いの話を持ってきた。「はつこい」の相手で居たかったから、五月蝿く詮索しなかった七緒が芦屋財閥の次期当主に成るために頑張る智久にアポをとった。久しぶりに見た智久は素敵な紳士に成長していた。お見合いの話が来て初めて、亮一の事をそんな風に意識した七緒は智久に亮一と会わせて欲しいと伝えた。パンと両手を叩いた智久は驚くべき事実を打ち明けた。
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「亮一なら事故の慰謝料として人妻と婚姻してますよ」ショックだった。七緒ははつこいが実ったからと呆けていた自分を恥じた。泣きながら智久に説明を求めると以下の事を教えてくれた。亮一は仕事でガードしていた依頼人とその奥方の孕んでいた胎児を助けることが出来なかったから。独りぼっちで放心状態にある奥方の伴侶として償う道を選んだ。
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