鬼切りげんまん

西東友一

第1話

「いてっ」

 

 アオと呼ばれるオニの少年が友だちと石切りの石を探していると、額に固い物が当たる。

 アオは始めは何が起こったのかわからなかったが、ぶつかって来たものが何だったのか見て見ると、黒い石だった。


「大丈夫っ? アオ?」


 周りの友達たちが心配して駆けつけて、アオの様子を確認する。


「うわぁ、腫れあがっているよ・・・ひどい・・・」


 女の子のオニが切なそうな声でアオの額を見る。アオの額の真ん中は円錐形のコブになっていた。


「おい、きっとあいつらのせいだっ」


 一人の男の子のオニが川の先を指さすと、向こうの川岸にも何人かのオニの子どもたちがいた。


「やべっ」


 アオたちが彼らがやったということに気づかれたオニの子どもたち。


「逃げろっ!!!」


 一番活発そうな男の子がそう言うとみんな川から逃げていった。


「あいつら・・・謝りもしないで・・・許さない・・・」


 曲がったことが大嫌いなアオは彼らのそんな態度が許せず、本当は追って謝罪させたかったけれど、額とは言っても、頭に固いものが当たって、めまいがしていたし、川を泳ぐことができなかったので、睨むことしかできなかった。



「いてっ、いてっ」


 数か月がたち、石を当ててしまった向こう岸のオニの子どもたちも、ほとぼりが冷めたと思って、再び川で遊んでいた日のこと。初めはアオたちが向こう岸にいないことを確認して、慎重に遊んでいたが、オニなので罪悪感も無くなってきて、川の向こうのことなんかちっとも気にしなくなって遊んでいたら、シュウというオニの男の子の額に石が二つぶつかった。


「大丈夫、シュウ?」


 周りのオニの子たちがシュウを心配して近寄って来た。


「あぁ・・・」


「でも、オデコにたんこぶができてるよ」


 シュウの額の右と左の両側に、アオと同じように円錐型のたんこぶができていた。


「あっ、奴らだ」


 指を差すと、アオたちが石を手首だけの力で上に投げてキャッチして、自分がやりましたと言わんばかりに満足そうな顔をしていた。


「くっそおおおおっ、やろうめっ!!」


 シュウは手の平よりも大きな石を掴んで、アオたちのところへ投げました。


「うわっ」


 重かった分、スピードは出ていなかったおかげでアオたちは避けることができましたが、当たったらたんこぶだけでは済みません。


「あぶなっ・・・こっちも応戦だっ!!!」


「「「おおおおっ!!!」」」


 それから、オニの石投げ戦争が勃発してしまいました。


「きゃっ」


「いてっ」


「やったなっ」


「お前こそっ!!」


 その石投げ戦争で、多くのオニの子どもたちがケガをしました。

 そのことを知った両岸の大人のオニたちは話し合い、その川で石を投げ合うことを固く禁じました。

 

「ちっ、あいつらが居やがる」


 シュウたちが川に着くと、向こう岸にアオたちがいました。


「ちっ、あいつらが来やがった」


 アオたちが川で遊んでいると、向こう岸にシュウたちが来ました。


 お互いがお互いを殺意が籠った目で見ます。

 大人のオニたちは子どもオニの身の安全を確保するために、危険を禁止するだけで子どもたちの気持ちに寄り添うようなことを考えられなかったので、子どもたちは常々いがみあっていました。


 シュルルルルッ


 チャン、チャン、チャン・・・・・・


「おいっ、アオっ!!あいつら石をなげてきやがったぞっ!!」


 アオのところに血相を変えた男の子のオニがやってきて、アオが川の向こうを見ると、シュウたちが石を横なげしています。


「おいっ!!!! キサマらっ!!! 約束を破ったなっ!!!!」


 アオはカンカンに怒って、彼らを見ます。

 額にはまだ治っていないタンコブがツノのようにありました。


「へへん、別に石を投げてねぇよ。俺たちはなぁ、石を「切って」いるんだ。そんなことも知らないのか。はっはっはっはっ」


 そう言って、アオと同じように額のタンコブが治っていないシュウが石切りを見せます。


「1、2、3、4、5、6,7,8・・・あぁ、惜しい。惜しいよシュウちゃん」


 シュウの友達のオニの男の子が悔しがります。


「よし、良い石を探して、記録を更新だっ!!!」


 そうやって、楽しそうに石を探しているシュウやその友達の子どものオニたち。


「屁理屈を並べやがって・・・もしかしたら、石投げを狙っているかもしれない。こっちが練習しないで、あっちだけ技術が進歩したら、こっちは一方的にやられてしまう。こっちも、石切りの技術を磨くぞっ!!」


「「「おうっ!!!」」」


 オニは大変好戦的で、発想が争うことばかりです。

 アオの号令でアオたちの子どものオニたちも、石を見つけては石切りを始めました。


「おい、お前たち石投げは・・・」


 横なげで石を投げようとしている大人のオニたちが彼らを注意しようとすると、


「これは、石投げじゃないぜ、石切りですっ」


 リーダーシップが取れるシュウやアオにそう言い切られてしまうと、大人のオニたちは、


「おっおう・・・そうか。気を付けて遊べよ」


 と、言い返すこともできずそそくさと歩いて行ってしまうのでした。

 

 シュルルルルルルルッ・・・


 シュピンッ


「うわあああっ」


 シュウたちが驚いて、川の水面を跳ねてきた石を避けます。


「ふっふっふっふつ・・・」


 その石を石切りさせたアオがとても満足そうな顔をしてシュウたちの驚く顔を遠くから嘲笑していました。元々人間よりも運動能力がとっても高いオニたち。そんな彼らの中でも、手先が器用で運動神経がいいアオが投げた石は長方形の薄い石だったけれど、飛んでいる最中は円形に見えるくらい高速回転をし、ありえない速度で、川の水の上を跳ねて、対岸のシュウたちのところまで飛んでいき、岸にあった岩を綺麗に真っ二つにしました。


「アオっ、すごいっ」


「俺にも教えてくれ」


「私にも」


「アオくん、かっこいい」


 大盛り上がりのアオたち。

 しかし、


「あっ、あぶねえだろっ!!」


 シュウたちは面白くありません。

 先に作り出した遊びを憎んでいるアオたちがもっと上手にできるようになっているのもあるし、何より危険を感じたからです。


「・・・あぁ、ごめんごめん。僕が強すぎて。仕方ない、みんな。彼らが居る時は彼らが惨めにならないように手加減して遊ぼうか」


 その声に気づいたアオが、シュウたちにも聞こえるように大きな声でみんなに伝えます。


「なにを~~~~~~っ!!!」


「なにさ・・・」


 いがみ合うシュウとアオ。


「「みんな、石切りを開始せよっ!!!!」」


「「「「「おおおおおおっ!!!!!」」」」


 シュウとアオの号令で、再び戦争が始まります。

 今度は「石切り」戦争です。


「うわっ、危ないだろっ!!!」


 アオのところに横回転した石がダイレクトで飛んできて、アオはなんとかかわします。


「あぁ、悪いっ、悪いっ!! 手が滑った!!!」


 全然反省していない様子のシュウが悪態をつきます。


「くっそ・・・、シュウめ・・・」


 アオからすれば、いつもシュウは自分のモラルを破ってきて、ちゃんと謝らないので本当に腹が立ちます。


「こいつめっ!!!!」


 アオは二つの横回転の石を川に投げつけます。

 すると、石は川の中央あたりで、一回だけ跳ねて、シュウを目掛けてやってきます。


「お前こそっ!!!!」


 シュウはアオが何かを狙っているのを悟って、遅れた分、再び一つの石を物凄い速さで、ダイレクトに横回転で投げつけます。


 シュルルルルルルルッ

 

 スパンッ!!

 スパ、スパンッ!!!


「「「「アオっ!!!」」」」


「「「「シュウっ!!!」」」


 大将が傷ついて、周りの子たちは石きりを止めて、大将の周りに駆け寄ります。


「アオっ、血が出ている」


「シュウっ、血が出ている」


 二人とも寸前のとこで相手の石をかわそうとしたのですが、ぎりぎり避け切ることができず、額に傷ができていました。そして、奇しくもその傷はお互いのタンコブを取り除いていました。


「「うううう・・・・・・・っ、はっはっはっはっはっ!!」


「アオ?」


「シュウ?」


 二人の大将は痛がりつつも、笑い始めました。

 それぞれの子どもたちは彼らが頭をぶつけておかしくなったんじゃないかと心配し始めました。けれど、二人は頭に血が上っていたのが、血が出たことで、血の気が引き、同時のタイミングで争うのがバカバカしく感じたのでした。


「シュウっ!!!」


「アオっ!!!」


 二人は立ち上がり、初めて互いの名前を呼び合います。


「キミの発想はずるいけど、面白い」


「お前は窮屈だけど、すげえ」


「「じゃあ、一緒に遊ぼうっ!!!」」


 二人のグループは石投げや石切りに切りをつけて、喧嘩は止めました。

 でも、大声で話をしていると、相手が怒ったようにしか聞こえないときがあって、ときどき口喧嘩をすることもありました。オニなので、好戦的で競うのは大好きです。だから、二人のグループは話し合って、船造りを競争し始めました。


 相手のことをもっと知るために。

 自分のことをもっと知ってもらうために。


 彼らが握手をかわして、相手を傷つけない約束ごとの中で競争を楽しむことを指切りして約束して、オニなのだけれど、オニらしくない人間的な遊びを覚えるのは、まだちょっと先のお話―――


 おしまい。



 

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