第5話『チーズ乗せフランスパン』

 僕に、武器。


 しかも、へんてこな魔剣。


 だけど、その切れ味は最弱の僕でもわかるくらいの最高級。


知性のある武器インテリジェンス・ウェポンでもある……パンの見た目をしている魔剣。話し方は独特だけど、悪い人? 存在? じゃないと思う。


 とにかく、僕のような最弱人間が魔剣の所持者になったと言うのもおかしな事なのに。




 ぐぎゅるぅうううううう!!





 忘れたはずでいたのに、体は正直だった。


 このパンをあのダンジョンで食べようとしていたのに、今更になってお腹が空いてきてしまった。


 なので、恥ずかしくなって顔を両手で隠すと……フランスパンと言う魔剣は急に笑い出した。



【かかか! そーいや、抜く前に腹減っとる言っとったな??】


「……スビマゼン」


【かまへんよ? ちゅーことは……食う?】


「……何を?」


【ワイを?】


「は!?」


【おん?】



 この魔剣さん何言っているの!!?


 びっくりして、僕は力が抜けたのも気にせずに魔剣さんに近づいて、パンに見える剣の部分を掴んだ。触っても、やっぱりパンのような感触しかしない。



「なにお馬鹿なこと言ってるの!? 君って僕の武器なんでしょ!? なに食べさせて消滅するようなこと言ってんの!!?」


【お、おん? 元気出たなあ? 別にこのまんま食わせる言うとらんで??】


「へ?」


【ちょぉ、離れて】


「う、うん??」



 言われた通りに離れると……魔剣さんは、何故か体? を左右に振り出した。



分身アバター



 詠唱のようなそれが響くと、魔剣さんの姿がぶれて……そこから……別れた!? 正確には、パンの部分がもうひとつ!?



「なにそれ!?」


【ワイの分身やけど、意思はない。単純に食事の出来るパンや】


「わぁ!?」



 お肉とかじゃないけど、パンが食べられる。受け取ろうとすると、魔剣さんから待ったをかけられた。



【火起こしぃ。その間に食べやすくしたる】


「火?」


【炙る方が美味いねん。サンドイッチするには具材ないやろうし】


「! そっか。あ……けど」



 僕が荷物入れにしていたカバンを下ろして、保存の袋に入れてた食材を取り出す。チーズしかなかったけど。



【ええやろ。ワイ、準備しとくわ】



 火をつけるのは魔法で簡単に出来るから、急いで薪は集めた。乾いた木の枝がいい具合に集まったので、魔剣さんのところに戻り……『火の粉』を使って焚き火を起こす。


 魔剣さんは、見えない魔力か何かで分身させたパンと僕が持っていたチーズを切っていた。



【まず、パンを軽く炙って】



 焦げる手前まで炙ってくれたパンは、白パンとかじゃないけど香ばしくて良い匂い!! そのパンのひとつを僕に渡すと……熱かったが、少し待つように言われた。



【こっちのチーズも軽く炙って……ほい、マスター。パンの上に載せるで?】



 出来上がったのは、パンとチーズだけのご飯なのにとても美味しそうなご馳走に見えた!!



「い……いただき、ます!!」



 もう我慢出来ないと被りつくと、熱々ですぐに離れたが息を吹きかけてからもう一度ゆっくり、かぶりついた。



「お、おいひい!?」



 パンにはあんまり甘さはないけど、炙ったことで少し柔らかくて外側はパリッとしていて……!? 溶けたチーズとの相性もばっちり!! パンはかみごたえもあるのに嫌な感じがしない。


 チーズのとろけた部分と、内側の少しパリッとした部分と一緒に口に入れれば……なんとも言えない幸福感に包まれた。



「……お、おいひい!!」



 涙が出てしまうくらいに、美味しかった。


 こんな食事……あのパーティーでもここ何年か食べたことがない。僕はいつも余りものだらけで。



【あのアホンダラらのせいで、惨めな生活してきたんや。これからは、堂々とワイが色んなもん食わせたる! 武術も鍛えたる!!】


「あ……ありがとう! えっ……と、魔剣さん??」


【せや。簡単にでもええから、ワイに名前つけてくれん?】


「? 魔剣さんなのに??」


【かっこつかんやん? 登録するから〜】


「う〜〜ん」



 この魔剣さんは僕の命の恩人? 恩剣? とも言える相手だ。ちょっと、乱暴だけどご飯も作ってくれたんだもの。下手な名前だなんてつけられない。



【じ〜〜!!?】



 ……わざとなんだろうか?


 なんか、音を口に? 出しているような……。


 けど、見つめられたことで決まった!!



「フランツ!! フランツってどうかな??」


【ええで!! フランスパンの魔剣改め、このフランツ……マスター唯一の武器として活躍させたる!!】



 と言うわけで、凸凹なコンビが結成した瞬間でもあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る