第3話 パンが剣②

 よくわからないパンで出来た剣を抜いてしまった僕は、それを構えて最下層を脱出した直後……まだ稼働しているダンジョン内の渦から出現したと思われるモンスターがうようよとこちらに向かってきた。



「……この剣を抜いたからって、渦が消えるわけじゃないのか」



 さて、この剣の試し切りになる第一の犠牲者はどのモンスターか。まずは、ナイト武装をしているゴブリンから切りかかることにした。



「はぁああ!!」



 こんなパンの剣で切れるかわからないけど……試しに切ってみる!


 すると、僕がもともと持っていたなまくらレイピアよりも断然に切れ味が良く、ゴブリンを装備ごと真っ二つにすることが出来た!?



「え?」



 それともうひとつ。


 パンの部分が欠けるどころか血すらついていない。これはもしや、お手入れいらずの素晴らしい剣なのでは!?



「……よし」



 あのパーティーに戻っても、この剣の素晴らしさだなんてわからないだろうし……また雑巾のように扱われるだけだ。ソロだなんて、無理なことはわかってはいるが……何もしない方より全然良い。



「逃げよう!!」



 ここのモンスターはどんどん沸いてくるけど、この剣があればなんだって出来るかもしれない! モンスターの装備とかなんとかは無視して、とにかくパンの剣を振るいながら……どんどん外に近づいていく。


 まったく疲れとかを感じずに、とにかくひたすら登っていくと。



「あ?」


「……嘘!?」


「馬鹿トラがなんか持ってる!!?」



 と言う、パーティーメンバーがのんびりしていたのを見て、僕はさらに決心を固めた。



「バイバイ!!」



 そう言うだけ言って、逃走することにした。


 敏捷性が高い僕に、彼らが追いつけるわけがない。


 すぐに遠くなった彼らのギャーギャーうるさい声も聞こえなくなっていく。


 荷物ももともと大して持っていなかったので、戻る必要性はない。


 とにかく、暗い森の中を走るに走って……湖のところに出てから、やっと止まることが出来た。



「……はぁ……はぁ……」



 止まれたので、僕はパンの剣を地面にそっと置き、湖の水を両手ですくって口に流し込んだり顔を洗った。



「……生き返る……」



 あのダンジョンでがむしゃらにモンスターを討伐したとは思えない。もう、遠い記憶のように感じるけど。



「……けど、現実」



 目の前に、この剣は確かにある。


 もう一度触ろうとすると、いきなりカタカタ動き出した!?



【やーっと、かい?】



 いきなり、パンの剣がしゃべり出した!?


 僕が驚いていると、パンの剣はひとりでに動き出して……柄の部分を地面に立て、剣の部分を僕に向けた。


 顔なんかはないけど、不思議な切り込みの部分が顔に見えたのは僕の気のせい!?

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