第2話 パンが剣①



「……なにこれ……??」



 剣があるはずが、ただの細長いパンが台座に刺さっているだけだった。


 誰かがいたずらで刺した??


 魔剣はとっくに、ない??


 僕は騙された??


 そう思うと、僕は地面に膝をついた。



「……嘘でしょ??」



 彼らが僕を騙した。


 それは十分にあり得る。あれだけ僕を殴ったりなんだったりしたんだ。邪魔で、役立たずだからこのダンジョンでのたれ死ねばいいんだろうくらい……今だったら理解出来た。



「…………ちくしょー……!!」



 悔しさが……今になって込み上がってきた。


 地面を叩いても、乾いた音すらしない。


 パンが刺さったままの台座もびくともしない。


 何度叩いても、目の前の光景は変わらない。


 帰りをどうしようだなんて、僕は考えていなかった。ただ、あの人達の言うように魔剣を取ってくるのに必死だったから。



「……うぅ……」



 悔しくて涙が出ると……僕のお腹が情け無いくらいに音を響かせた。



「…………何にも食べていないんだった」



 急げ、と彼らにこのダンジョンに放り投げられたから……本当に空腹状態。火を起こして、モンスターの肉を食べるだなんて余裕もなかった。


 けど、今目の前には……食べ物がある。



「……このパン、食べれるかな??」



 そうするしかないと思った僕は……立ち上がって、そのパンに近づく。


 パンにしては、剣くらいの長さがあるけど……本当になんでこんな場所に刺さっているんだろう。


 手を伸ばして、触ってみると予想以上に固い感触が手に伝わってきた。



認識リコジネーション



 触った直後に、頭の中で声が聞こえてきた。



「……え??」


承認アプローバル。個人名、トラディス=クレイグを装備者として登録致しました。こちらの剣をお抜きください。あなた様唯一の武器となります】


「待って、待って待って待って!!?」



 このパンって武器!?


 んでもって、僕が何故か扱えるようになった!!?


 びっくりした拍子に思わず掴んで、抜いてしまうと……柄だけが両刃剣のもので、刃はパンのままの剣が出来上がってしまった……!!?



承認アプローバル。フランスパンの魔剣、完成と相成りました】



 また頭の中にその言葉が聞こえてきた後……僕の頭は言葉じゃなくて、色んな風景が巡って激痛を与えられてしまった。



「い゛っ!? だだだだだだだだ!!?」



 移り変わりが凄まじく速い……そして、僕の中に色んな知識が入ってくる。何が何だかよくわからなかったけど、ひとつだけわかったのは……このパンみたいな剣がとてつもなく、固くて実用性の高いパンだとわかった。


 剣を構えながら息切れていた僕は……やがて、落ち着き顔を上げた。



「不恰好だけど、これさえあれば」



 あんな人達をぎゃふんと言わせることが出来るかもしれない。


 そう思うと、僕は腕試しがしたくなり……剣を持ったまま最下層から出ることにした!!

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