SS6-2赤薔薇隊長ライラのスローライフ~鬼人族の姫と友達になる~

「ふむ、それにしても…………肌がスベスベで羨ましい限りじゃ。それに加え、胸も大きいとはけしからん」

「ひゃぁ!ちょっ━━━━」


 ガツン


「痛っ!」

「姫様、他のお客様に迷惑を掛けてならないと…………あれほど注意しましたよね?」

「スミマセンスミマセン。もう、しませんから許してたもう」

「そこの人間、ウチの姫様が迷惑を掛けてすみませんでした。姫様が、こう仰ってますから、どうか許してくださいますか?」


 昔、ライラが赤薔薇隊に入隊したての新人の頃の遠征中、鬼人族オーガの男数人と小競り合いが起こった時があった。今でも思い出せる。

 憧れの赤薔薇隊に入隊出来、ライラ自身浮かれていたのだろう。

 鬼人族オーガごときに遅れを積もりはおろか、余裕で打ち勝つと傲慢な気持ちで油断をしていた。

 結果は、見事の惨敗。味方の援軍が来なけりゃ……………今頃は、ここにいなかった。それほどにトラウマと化している。ライラにとって恐怖の対象であった。

 だけど、今目の前にいる鬼人族オーガはどうだろう?

 最初はトラウマで恐怖が涌き出て来たが、少し耳を傾け一方的に話を聞いてみると、全然恐怖なんか感じなかった。

 むしろ、恐怖よりも笑いが込み上げて来る。


「クスっ……………あっ、すみません。特に迷惑だとは思ってませんので大丈夫です」

「そうか、許してくれるか。そりぁー、良かったのじゃ。名案を思いついたのじゃ。ソナタ、名前は何と申す?」

「えっ?わ、私は……………ライラ……………ライラ・レイニドールです」

「そうか…………ライラよ。妾は、アリス……………アリス・S・シドニスなのじゃ」

「なっ!」


 アリスの名前を聞いた途端に、ライラは数秒間硬直後にこれ以上のない「ええぇぇぇぇぇぇ!!」と悲鳴が温泉中に響き渡った。

 ライラが悲鳴をあげるのも無理はない。王族に仕える者ならば誰だって一度は聞いた事ある。

 アリスが名乗ったシドニスという名前は、鬼国シェールを統べる王の名前がシドニスだ。本人か、その血縁者にのみ〝シドニス〟の名を持つ事が許されると聞く。

 即ち、ライラの目の前にいる少女が鬼国シェールの王族であるという事になる。


「鬼国シェールの王族の方でしたか!ご無礼を致しました」


 ライラは、一歩後退し膝を着いて頭を垂れる。全裸でシュールな光景となってるが外国の王族が不敬と認知すれば、いくら王都の騎士隊隊長といえど、首をはねられてしまう。


「ほぉ、流石は赤薔薇隊隊長よのぉ。妾の名を知っておるか」

「姫様、イタズラが過ぎます」

「良いでないか。かの有名な赤薔薇隊隊長を目にする機会なんて、そうそうあるはずないしのぉ」

「私を知って頂き光栄に存じます」


 ライラは冷静に対応してる風に見えるが、実際のところ頭の中はパニック状態だ。

 いきなり目の前に外国の王族が現れ、一緒に風呂に入ってるなど前代未聞だ。

 それに自分を王都の花形である赤薔薇隊隊長だと知っていた。

 お姉様から引き継いでから、まだそんなに経ってないどころか、まだ数日程度なのに相手は知っていた。

 驚くべき情報収集能力にも驚愕を隠せない。それと何故自分に接触してきたのか分からない。不敬にならないよう警戒する。


「ライラよ、そなたに頼みがあるのじゃ」

「はっ!なんなりと申し付けください」

「妾と……………と、友達になって欲しいのじゃ」

「はっ!えっ?」


 今何て言った?トモダチともだち友達friend?

 ライラは、アリスが何て言ったのか理解出来なかった。

 王族と友達なんて、それも外国から来た王族と友達になるなんて普通はあり得ない。

 だから、ライラは素っ頓狂な声を出してしまった。

 幾千の修羅場をユニと共に潜り抜けてきたライラであるが、流石に断るべきか、受けるべきか悩んでいた。

 本音では、断りたい。王族と友達なんて荷が重すぎる。だけど、断ってしまうと、それ事態が不敬になりかねない。


「すみません。急なお申し付けに戸惑っておられる事でしょう。姫様は、立場上の問題により近しい友人など皆無でした。つまり、ボッチでございます」

「おい、シャルよ。それは不敬にならぬか」

「ご迷惑でなければ、姫様のご友人になって頂けませんでしょうか?」

「無視なのか!妾を無視するのか!」


 アリスを姫様と呼ぶ従者らしき女性からもアリスの友達を懇願される。

 王族と対等な友達なんぞ、それもアリスみたいな少女なら尚更、周囲は大人ばかりで間ともな友達と呼べる者なんて出来るはずもない。

 その気持ちは痛い程に良く理解出来る。赤薔薇隊に入隊してから今まで友達と思っていた奴が、掌返しで金の無心をされるようになった。

 一気に心が冷めた風に、そいつとは縁を切った。それからも男性からはエロい目付きで見られるようになり、女性からは嫉妬を受けるようになった。


「私で良ければ、友達になります」


 気持ちが痛い程分かってしまうからか、自然と肯定の言葉を口にしていた。


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