45食目、魔王の娘カズトのベッドに潜り込む

 魔族のリリーシアが来てから翌日、カズトは窓から射し込もる朝日に瞳をウッスラと開き自分の横に余計なものが紛れ混んでる事に気付き布団をガバッと捲った。


「ムニャムニャ、もう食べられないのじゃ」


 見事にド定番な寝言を呟くリリーシアがカズトに抱き枕として抱き着き寝ている。

 そのせいで妙に柔らかい物が当たってる気がするが、まぁ気のせいだろう。

 それよりも考えるべき事がある。何故ここにいるのか?

 単純に部屋を間違えたのか、わざとなのか。それにより、カズトの対応が変化するからだ。


「おい、リリーシア起きろ。朝だぞ」


 ユサユサとリリーシアの肩を揺り動かす。これで起きる様子が無かったら強行手段を取らざる得ない。

 嫁達なら耳元で囁く手段もあるのだが、リリーシアは違うので、この手段は取らない。


「あっ、ここに大きな骨付き肉があるのじゃ。スヤスヤ」


 ガブリ


 痛ぇぇぇぇ!俺の腕を寝惚けて噛みつきやがった。

 カズトの腕には見事に歯形がついており、出血はないものの痛そうである。


「痛っ!もう許さんぞ。日本式の起こし方で起こしてやる」


 日本では、畳の上に直接引き布団を引いて寝るがアグドでは大抵ベッドた。高さがある分威力を増す事だろう。

 カズトは布団の端を持ち力任せに持ち上げた。そうするとどうなるだろうか?

 もちろん、その上で寝てるリリーシアは物理的にベッドの下に落下する。


「ぶへっ?!」


 運悪く顔面から床に落下し強打した。そのせいで美少女とはらしかぬ声を発した。

 そうまるで豚みたいな鳴き声だ。ただし、本人には指摘しない方が良いだろう。

 だって、俺の周りには嬶天下とは言わないが怖い女性が多いんだもの。その事は本人を目の前にしていけない事の一つだ。


「な、何するのじゃ(怒)」

「それはこっちのセリフだ。いつの間に潜り込んでたんだ。まったく、こんなところを見られたら俺が怒られるだろうが」

「こんなところってどんなところ?うふふふふっ」


 ビクッ恐る恐る後ろを振り返るとニコヤカに笑顔のレイラだが、何故かガタガタと震えが止まらない。

 何故なら、レイラの背後に得体知れないものがこちらを覗き込んでるからだ。いや、あれは般若の仮面を被った何かだ。

 レイラとは初対面のはずのリリーシアも俺の横でガタガタと震えてる。リリーシアにも見えてるようで、安心したが安心出来ない。


「カ~ズ~ト~、そこにいる女は一体誰なのかな?今日のオカズにするのかな?」

「ヒィ~!ガタガタ」


 レイラのあまりの迫力にカズト共にリリーシアは震えてる。


(か、カズト!あれは一体何なのじゃ。あんな化け物は久方ぶりに見たぞ)

(ば、化け物とはヒドイなぁ。俺の嫁なんだけど………)


 カズトの言葉が信じられないと風にリリーシアは向後にカズトとレイラを見渡し、眼をパチクリとしてる。

 目の前にいる恐怖の権化と化したレイラを嫁と言われても目と耳を疑いたくなるのも分かる。だが、現実なのだから仕方ない。


「うふふふふっ、これは裁判が必要ですわね」


 レイラの鶴の一声でレストラン"カズト"従業員を招集し裁判が開催された。

 場所は一階のスタッフルームであるが、営業時間の問題があるため、ミミがスタッフルーム全体に時空間魔法を掛けスタッフルーム内と外部との時間の流れを変えた。

 スタッフルーム内が一時間過ぎるに対して外部では一秒過ぎる。

 この魔法に関してカズト達は慣れで特に驚く事はないが、まだ新人のルーシーと魔族のリリーシアは驚愕の表情になる。


「なっ!そんな高等魔法………いや、神に等しき魔法が使用出来るじゃと」

「ぼ、僕は魔法の事詳しくないけどこれがスゴい事は分かるよ」


 この二人が驚いたように時間を操る魔法は人間ていうか全国探しても片手で数えられる位しかいないだろう。

 その一人が神であるシロ、そして魔法ではなく技術スキルだが勇者であるカズトも何とか時間をミミ程細かく操れはしないが操れる。


「みんな静粛に、これから第二回カズト裁判を始めたいと思います。罪状は夜中遅くに女を連れ込み一緒に寝たという容疑であります。被告はこれに間違えはありませんね?」

「異議あり!私はただ店の前で倒れていたところを助けただけであります。部屋を用意しましたが、リリーシアは初めての場所のため迷ったのであります」

「そんな事ないぞ。カズトの約束で妾は自らの意志で元へ━━━」

「お前は黙っとれ!(勝手に潜り込んだのはお前じゃないか!)」


 何もなく円満に解決させようとしてんのに、余計ややこしくしようとしてんだ。それに、俺はそんな約束してねぇよ。

 カズトはリリーシアをチラリと見たらニヤニヤとニヤけている。リリーシアの顔を見て確信する。

 絶対わざとあんなウソ言ったと、この現状を楽しんでる顔だ。

 もしかして、早まったか!とんでもないヤツを店に入れてしまったかもしれない。


「その話を詳しく聞きましょうか?」


 うぉぉぉぉぉ!もう、100%有罪確定しちゃうじゃねぇか!

 この場面をどう切り抜けようか。と、考えるが脂汗を掻くばかりで頭の中は真っ白になっている。



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