44食目、魔王の娘と風呂に入る
「ここがリリーシアの部屋だ」
内装はカズト達と同じ広さに家具の配置も凡そ同じだ。後は自分で改造すれば良い。
女連中は自分の趣味志向を凝らし部屋を改造してる。
一方、カズトの部屋は、ほぼ初期の配置と変化ない。変えたところというと本棚を置いた程度である。
「ふーん、中々の広さじゃ。まぁ殺風景なのが気になるがの」
「それは後で改造してくれ。働いた分のお金は渡すし、それで後に買えば良いだろう」
「ふむ、そうじゃな。今日は疲れた事だし、休む事にするかの」
「ちょっと待て!そのまま寝るつもりか?」
リリーシアが部屋に入ろうとした時、カズトはストップを掛けた。
何故なら、ここに来るまでまともに風呂ていうか水浴びして来なかったリリーシアはハッキリ言って匂う。
「クンクン、そんなに匂うかのぉ」
自分自身の匂いは分かりにくいものである。この世界では、冒険者という者は平気で一週間、一ヶ月と平気で入らないからな。
冒険時代、カズトは男だからまだ我慢出来た。ドロシーやミミなんかも元々研究を優先してたせいか風呂に入る自体レストラン〝カズト〟を開業するまでは無頓着だった。
問題は王族であるルーシーは風呂好きで、毎日じゃなくても平気だが定期的に入らないと発狂する。
風呂が出来ない場合は最悪水浴びで済ませてた。が、レストラン〝カズト〟が出来てからは毎日欠かさずに入ってる。
「あぁ、匂うぞ。案内してやるから入れ」
「クンクン、むぅ、大丈夫かと思うがの。しかし、ここは主であるカズトに従うかの」
部屋からそんなに遠くないが、お風呂場へとリリーシアを案内する。まさか、これが修羅場になるとは思いもしなかった。
「ここが我がレストランが誇る大浴場だ。増分に楽しんでくれ。それじゃぁ、俺は部屋に戻るからな」
俺が部屋に戻ろうと反転したら肩をガシッと掴まれた。
魔族だからか力強く、今現在聖剣を所持してないカズトには振り払えない。ていうかギシギシと痛い。
「ちょっと待つのじゃ。お主も入るのじゃぞ。も、もちろん目隠しでな。勇者なら目隠しでも大丈夫じゃろ」
そりゃぁ、聖剣がなくても気配を察知する位なら出来る。
ただし、聖剣の有り無しとでは精度が雲泥の差で、無い時は朧気にそこに何がある程度しか分からない。
それに照れるならやらなければ、良いのにとカズトは思う。
今のリリーシアの顔は通路が薄暗くて判りにくいが赤く染まってる事だろう。
「はぁ~、了解致しました。お姫様」
方向転換し、女風呂の暖簾をくぐった。くぐった直後、目隠しをされリリーシアが先に入った後で、カズトは衣服を脱ぎ捨て手探りで下半身をタオルで隠す。
風呂の扉を開けた瞬間から気配察知を開始し、何となくリリーシアの居場所をつかんだ。どうやら洗い場にいるらしく、カズトもそこに近寄る。
リリーシアは椅子に座ってカズトをワクワク顔で待っていた。
「さぁ、洗ってちょうだい。変なところを触ったら容赦しないのじゃ」
「ぜ、善処致します」
スポンジに石鹸を擦り付け泡立てていく。充分に泡が立ち、先ずは背中を洗おうとスポンジをリリーシアの柔肌にピシャリとくっつける。
「ひゃぁ!」
魔族でもリリーシアは女性だ。このスポンジずいぶんと可愛いらしい声で鳴いた。
この世界アグドには、石鹸やスポンジは存在せずカズトが【
他の消耗品同様無くなり次第、【
「すまん、スポンジと石鹸は初めてだったか?最初に説明すればよかったかな」
「ただ驚いただけなのじゃ。慣れれば気持ち良いものじゃ」
止まってた手を再び動かし、リリーシアの小さな背中をゴシゴシと洗っていく。
度々、可愛い声が聞こえるがカズトの気配察知により何となく瞳が潤んで気持ち良さそうな表情をしてる事が分かる。
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ
背中を洗い終えると、次に腕を洗い━━━終えた後は順序的には前側になるが、カズトが前側を洗ったかどうかは、皆さんの想像力にお任せする事にしよう。
最後に髪を洗うためにシャンプーとコンディショナーを用意する。トリートメントでも良かったのだが、レストラン〝カズト〟の値段設定では高くて扱えない。
「よし、髪を洗うぞ。お湯が目に入るから瞑った方が良いぞ」
ジャバーンとお湯を掛けシャンプーを手に擦り付ける様に髪を洗う。
随分と洗ってないからかガチガチに毛玉じゃないが固まっている。
ゴシゴシワシャワシャゴシゴシワシャワシャゴシゴシワシャワシャゴシゴシワシャワシャゴシゴシワシャワシャゴシゴシワシャワシャゴシゴシワシャワシャゴシゴシワシャワシャ
見えるだけの汚れだけではなく、毛穴の中に入り込んだ油やフケもスゴい。
今回、時間が掛かっても丹念に洗わければ清潔にしないと下では働かせられない。
そこで見様見真似で、俺には妹の他に年が四つ程離れてる姉がいるのだが、美容師で滅茶苦茶髪を洗うのが上手いというか気持ち良い。その
実は洗い終わって気がついた。リリーシアの髪は茶色じゃなく青空に似た青色だった。
この後、リリーシアがお礼として俺の体を洗うと言い出したが、それを断固拒否した。もし了承したら、ここに住む般若二人に殺されるからだ。
俺はリリーシアを置いて脱衣場に逃げ出した。そこでリリーシアの着衣からただならぬ気配というかオーラを感じる。
「この感じ…………魔王か?!」
『くっははははは、その通りお前達が倒した魔王だ。【敵討ちの衣】に魂を宿らせ我が娘と一緒に来たという訳だ』
「ほぉ、【敵討ちの衣】ってこれか?」
恐る恐るリリーシアの着衣から魔王の気配がする衣類を探しだす。
ずっと着用していたのだろうか?薄汚れたクロークを手に持つと、これが【敵討ちの衣】だという事が分かる。明らかに威圧感が違う。
「お前の処分は後で考えるとして………」
『お、おい何を考えてるんだ?!おい、やめろ』
「今は俺のアイテムボックスで眠っとけ」
【敵討ちの衣】をアイテムボックスへと仕舞った。アイテムボックス内は時間停止ので、それが一時的に封印代わりとなる。
これでリリーシアは、勇者を敵討ちと思わないだろう。取り敢えず、一件落着だ。
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