43食目、魔王の娘をスカウトしました
「それで妾をどうするつもりなのじゃ?殺すのか?」
ごもっともな質問だ。魔王は討伐され魔族と人間の間には争う理由がなくなっても仲が悪いのは変わらない。
お互いの仲間を殺して過ぎたのだから。そうそう、和解が出来るはずもない。
「うん?何故俺がお前を殺さなきゃならないんだ?」
「えっ?だって、お前は勇者なのだろう?なら、魔族を殺すのは当たり前じゃないのかえ」
これも魔族じゃなくても疑問に思うところだ。アグドの常識では、勇者とは魔族と戦う者の事を言う。
道中、
「俺は確かに勇者だが、魔族と滅ぼそうとは思わん。ただ戦争を助長してる魔王というシステムを破壊したかっただけだ。
それが済めば、俺は魔族とも友達になりたいと思ってるんだ。俺が持つ料理の力でね」
カズトの言い分を聞いた魔王の娘は、ポカーンと呆けた顔と開いた口が塞がらないという状況で茫然自失と、目の前のカズトがまるで珍獣でも見るような目で見詰めている。そして、いきなり笑い出した。
「プッククククあははははは、そうかそうか。魔族とも友達になりたいと申すか。よし、決めたぞ。魔王を倒した責任を取って貰おうか?」
「えっ?責任って一体何!魔王を殺した俺に復讐したい訳ではないのか?」
「逆に聞くがそんな復讐に来たヤツに飯をお主は奢るのか?」
そう言われると常識的に考えていないな。もし、いるとすれば変わり者か物好きなどちらかだろう。
そうすると、俺も変わり者か物好きの仲間入りという事になるのか。何か、それはやだなぁ。
「なぁに、簡単なことよ。ここに住ませろ。魔王が倒されたせいで妾の居場所は、魔族側にもないからな。魔王を倒したお主の責任だと思わないか」
ふとカズトは考える。最近ルーシーの人気急上昇の嬉しい影響で逆に人不足なのは否めない。
そして、目の前にいるのは魔族という事を忘れれば美少女だ。
ただ長旅のせいで所々衣服はボロボロで匂いも若干だがする。そこはレイラかドロシーに任せれば良いだろう。
「よし、分かった。衣食住は保証しよう。ここに住んでも良いが条件がある」
「条件とな?何じゃ、言ってみぃ。これから世話になるのじゃからの。妾に出来る事ならばやってしんぜよ」
上から目線がちょい気になるが言質は取った。これで従業員を一人確保だ。
「条件とは、働かざる者食うべからず。つまり、住むというならここで働け。ここは飲食店だからな。最近、客足が増えて人手不足なんだ」
「妾に働けとな?ふむ………」
魔王の娘は考える素振りをする。
魔王の娘ていうか姫だったのだ。働いた事のない者ニートだったのに、急に働けって言っても過酷かもしれない。
でも、目の前にニンジンでも吊るせば怠惰な馬や豚が走るようにご褒美をちらつかせばヤル気も出るかもしれない。
「働くというとも面白いやもしれぬな。じゃが、この角をどうしたものか?魔族と一発でバレてしまうのではないか」
魔王の娘の頭には立派な四本の角が生えてる。それを見たカズトはふと考え、アイテムボックスから一見何の変哲もないリボンを取り出した。
そのリボンを角に巻き付けキュッと可愛く縛る。見た目だけは可愛く見える。が、常人が見ても見えない。
「よし、これで良し。
これの優れた点は、物体だけではなく魔力さえも隠してしまう点だな。これで普通の美少女と変わらないはずだ」
ただ、細長いため使用箇所が限られてしまう。こういう事でないと使い道がない。
レアアイテムなのだが、今まで使用用途が無かったためアイテムボックス内で腐っていたに等しい。
カズトは手鏡を渡し、自分の顔が映ってる事に驚くが直ぐに慣れたのか自分の美しさにウットリと惚けてる。
まるでナルシストのようで、鏡を渡した事で新たな扉を開けてしまったか。
男のナルシストは見てて気持ち悪いだけだが、女の場合は気が強くなる傾向があるだけで精神的害はないとカズトは考える。
「鏡よ鏡さん、この世で一番美しいのはだ~れ?」
「………この世で一番美しいのはあなたです………って言ったら満足か?」
「うん、満足なのじゃ。これくださる?」
よっぽど手鏡が欲しいのかキラキラと瞳が輝き期待している。この世界では鏡なんて作る技術ないからな。
欲しくなるのは当たり前だと思う。むしろ、これを世間に出せば貴族とかが真っ先に買い占める事を目に見えている。
なので、カズトは手鏡をあげる条件を提示する。
「あげるのは構わないが条件がある。ここだけで使う様に………盗まれる可能性があるからな」
「うむ、心配性の気がしなくもないが了解なのじゃ」
確かに心配しすぎかもしれないが、貴族の情報網を侮ってはいけない。冒険時代では、それで苦労したものだ。
「そういえば、名前まだったか。俺は君の言う通り勇者で、カズト・スメラギだ」
「妾はリリーシア・スムージーじゃ」
簡単に自己紹介を済ませ、スタッフ専用の部屋と風呂に案内させ解散となる。
と、思いカズトは自分の部屋へ戻ろうとしたが、そうは問屋が卸さなかった。
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